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「ポチよ 泣かないで。」
詳細は、こちら。忠霊塔。
○目次。 ポチよ。
光の道。
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「光の道を備えよ！。」
初恋編（少年編）
見知らぬ 美少女の記憶。
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忠霊塔の、
①、丘の記憶。
忠霊塔の傍に建つ、小さなお堂に宿泊している、旅人の家族がいた。
「まこと」が、忠霊塔の丘にあがってみると、見知らぬ少女が一人 立っていた。「こんにちは！。」と、挨拶すると、驚いたように振り向いて見つめ、小声で「こんにちは。」と、呟き、はにかみながら、
「まこと」に、ゆっくりと近寄って来た。
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「あれ？、見かけない顔だね。」「うん、今、お父さんと旅をしてて、そこの「お堂」に泊まらせて貰ってるの。」「ふーん…、そうなんだ。」 「まこと」は、「お堂」の中にいる家族の様子を見ようとしたが、戸が閉まっており、父親の姿は 見えなかった。
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「まあ、いいか。」と、気にせずに、見知らぬ少女に、話しかけていた。 「あ、そうだ。この忠霊塔の石碑にはね、僕の父親の弟の、「よしき叔父さん」が
戦病死して 祀られているんだよ。」と、祭壇のほうを指差した。「え、そうなの？。」
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「うん、おいで。」と、階段を登り、銅板がある、祭壇の裏に導いた。「これが 叔父さんの名前で、「芳喜」と書いて「よしき」って読むんだ。」 「まこと」は、石碑の前面に貼ってある銅板の、戦没者の名義の中の、一人を 指差して こすりながら 教えてあげた。
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「へー、そうなんだ‥。」
少女は 「まこと」の顔と 銅板の「よしき」の名前を 交互に見つめて、何か考えていた。（ひょっとして、父さんの 亡き戦友の一人かも知れない…。）頭の中に、（もしかして、この少年の叔父と、父との、奇遇な出逢いとなるのかも知れない。）と、不思議な縁を感じていた。
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父親のいる 「お堂」のほうを振り向いたが、何かを思い出したのか、（父に聞いてみようか？。）と一瞬、思った事を、（いや、）と、急に否定して、諦めた様子に見えた
。
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（簡単には、話しかけられない、何か 憂鬱な、悲しい事情を抱えている、父親と娘なのかも知れない‥。）「まこと」は、ふと、汽車の事故で 片足を失った 「父親の義足の姿」を思い出していた。
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（父を呼んで、言おうか？、言わずにおこうか？。）と、迷って悩んでいる、少女の 複雑な心の葛藤を
痛々しく感じて、それ以上 何かの 縁となる可能性の 詳しい話を、「まこと」は 聞けなくなった。
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（歩いて外に出て来る事も、そう簡単にはいかない、不自由な体になり、重い障害を背負った、父の姿を見られたくない。）という
子供の気持ちが、「まこと」には、何となく
すぐに 察せられて、躊躇している心を 感じていたのだった。
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（「私は あなたの叔父の「よしきさん」とは
戦友だった。」とか、もしかして、思わぬ、 叔父 さんの話が聞けるかも知れない。）と新しい出会いを期待した。しかし、少女の え体の知れない、不安な 心の闇を探りながら、（しがらみの鎖を振り切って、勇気ある、決断をしてくれるだろう。）と伺っていた。
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だが、（やっぱり、醜い父親の姿を他人には見せたくない。）という思いが、少女の心を支配していた。さりげなく（父親なんて知らない。）というそぶりに切り替えた。（まあ、仕方ないか…。）、申し訳なさそうにうつ向く、少女の、大人びた、美しい横顔を見つめた。
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二人は 重苦しい気持ちを振り払うように、話を切り替えて、戦没者の銅板のある石碑から離れて、広場の周りの、桜の並木のほうに、さりげなく移動して移った。つつじの垣根を、撫でながら歩いた。
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降り積もった 桜の花びらを 両手ですくって、何度も 宙にまいては、「私は花さか爺でーす。枯木に花を咲かせます。」と、ふざけて体にかけあって
遊んだ。たちまち 時間が過ぎてゆき、夕暮れになり 日が傾き始め、忠霊塔の石碑は 夕日で赤く染まった。
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「日が暮れて来たね。…じゃあ、また明日 会おうね。」「…うん。…じゃあね。」 二人は
手を振りながら、残念そうに 別れの挨拶を交わした。「まこと」は、後ろ髪を引かれる思いで、狭い急な坂道を
転がるように 降りていった。
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「まこと」は、（翌日も、忠霊塔の丘に登ろう。）と期待して思っていたが、急に用事が出来て行けず、翌々日になって登ってみると、もう
そこには、誰もいなかった。少女も 父親の姿も消えて、「お堂」の中は きれいに片付けられていた。
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（もう あの美しい少女には
二度と会えないんだ。ああ、こんな事になると判っていたら、連絡先ぐがらい 聞いとけば良かった…。）手を振っていた少女が、浮かんできて、後悔が襲って来た。
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奇跡を信じて、お堂の前の階段に座って、いつまでも、佇んでいた。（ああ、しまった。「明日、会おうね。」と、いう約束を信じて、少女は 翌日に、ずっと待ち続けてくれていたかも知れないのに、僕は、翌日に会う約束を破って、すっぽかしちゃったのかも。）と 気づいた。
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僕は、うっかりして、何てひどい事をしちゃったのか。少年に裏切られた悲しみに、うちひしがれながら、「お堂」を去っていく少女の、失望した姿を思い浮かべると、次から次へと、涙が溢れてきて、頬を伝う涙が、とめどもなく流れた。
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今となれば、もう どこの誰だったのか、何も判らない。多分、糸島の地から出征したが、かなり、ひどい負傷して帰還した、生き残りの同期の兵士の一人だったのかも知れない。もう紛失してしまったが、「二見が浦」を背にして集まり、出征前の記念写真を撮った何十人かの、うら若い、兵士たちの中の一人だったのではないかと思う。
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「福吉」に、「忠霊塔」が建てられた事を聞いて、戦没者となった
戦友を偲んで、「忠霊塔」に眠る、英霊の魂を祀る為にやってきたが、不自由な体を引きずって、娘さんと二人で来たものの、当時の交通事情で、「お堂」に、たまたま、宿泊する事になったのだろうか？。
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詳細は、こちら。忠霊塔。
○目次。 ポチよ。
光の道。
（もし、あの時に会話した少女が、まだ生きて 健在で いるなら、話の真相を聞きたいな。）と
今も願っています。もし、どなたか、覚えのある方がおられたら、写真などを送って、当時の詳しい、お話など聞かせて、頂けたら幸いです。
私、今＃川の連絡先です。
今＃川正信
marnonb2☆icloud.com
福岡県糸島市福吉☆１☆10☆７
080☆3981☆1954
０、 ①、丘の記憶。
おわり。
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①、丘。 浅。 ②、蛤。 茨。 ③、膳。
--------------------------①、丘の記憶。 浅い軽卒。
②、蛤の記憶。 茨の記憶。 ③、据え膳。
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思い込みが激しく、
決めつける、思慮の
浅い 軽卒な人間。
中学生の一学年だったか、学校のクラスで、盗難事件が起こった。女生徒の一人が、学級費を入れていた封筒が、カバンから 無くなったらしかった。
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その報告を聞いて、「校長先生」が教室に現れて、「今日は、このクラスの生徒達にお話があります。」と、いくつか
の質問をして、問いかけて来た。
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「みんな、全員、一斉に目を閉じて下さい。」「はい。」「絶対に目を開けないで、そのままの姿勢で、いくつかの質問に、心当たりがある人は、手を小さく上げて教えて下さいね。」「はい。」「村上さんの封筒が無くなった理由を知っている人は、手を挙げて下さい。」「…。」
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誰も手を挙げる人はいなかった。何かを期待して、生徒達を試していた。「誰もいないようですね．」「‥‥。」「覚えがある人は、正直に黙って手を上げなさい。」「‥‥。」
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「誰もいないの？」「‥‥。」「おかしいですねー。絶対にこのクラスの誰かが知っている筈ですよ。」「‥‥。」「どんなにシラを切っても、心当たりがある人は、顔に現れていますよ。」「‥‥。」
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「顔色が青くなったり、逆に、真っ赤になったりして、顔に出ている筈ですから、誤魔化したりは 出来ませんよ。」「‥‥。」「みんな、しっかり目を閉じたままで、そのままじっとしていなさい。」 教室全体に、重苦しい、沈黙の、地獄のような時間が流れた。
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その時、「まこと」は右目だけ、少しうす目をあけて、様子を見てみた。すると、前のほうの席の
島田という女生徒に目が合った。彼女も片目を開けて、周りの様子を見ていたのだった。「まこと」は
鋭い視線に驚いて うろたえた。
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すると、突然、「犯人は 今井さんじゃないの？。」と、大声で叫んだ。その声を聞いて、「まこと」は 突然 名指しされた事に驚き、パニックになった。みんなの視線は一斉に、「まこと」の、うろたえる顔に集まり、ざわつき出した。
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（何て経卒な事を言うんだ。このバカ女は‥。）何の根拠もないのに、うろたえただけで、自分か
「犯人だ。」と決め付けられ疑われてしまった、驚きと 悔しさと 怒りで、顔がますます、赤くなった。
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校長先生は、「まこと」の反応を見て、自分の思いついた方法が、失敗し、気の毒だと思ったのか、「はい、分かりました。もう、やめましょう。これで終わりにします。」と言って、失望した顔で 諦めて、教室を出ていった。（なに？、今の…。）
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（今の、校長先生の反応は、おかしいよ。一人の女生徒の、軽卒な思い込みで、自分が犯人だと決めつけられ、みんなには、疑いの目で見られて、容疑者にされてしまったの？。ひどい仕打ちだよ。一体、どうして、この誤解を解いたらいいの？。）これはまるで、未来に起こる事件を予告したかのように、「まこと」が先駆けて象徴的に、通過していた、不当な「濡れ衣」の、ひどい「冤罪事件」であった。
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校長先生ともあろう立場の人が、こんな状態に、一人の無実の生徒を、追い詰め、苦しませて、何の謝罪もしないで 逃げてしまうとは ‥なんてひどい。無責任な。
間違った判定を下す裁判官だ。
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それに、人前で、名指して、疑いの目を みんなに持たせてしまっても、一度も謝りもしない、女生徒のその後の平然とした対応にも、呆れ返り、腹を立てていた。加害者なのに賠償も謝罪もしない。
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「まこと」は、その日から、相手がどんなに 容姿端麗の美人でも、外見だけで人を判断する、思慮の浅い軽卒な人間に対しては、激しい
憎しみに似た、 極度の警戒心を抱く様になってしまった。
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時と場所を わきまえずに、口にしてはならない言葉を人前で平然と吐く、愚かな人間とは、距離を置いて、なるべく、深く関わらないような臆病者になってしまった。
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大人になってからも、この世の 人間関係において、決して 関わってはならない、禁断の 忌まわしい存在がいる。 下手に近づくと、僅かな取り違いが、絶望的、命とりになっていく。天国か、地獄かの、ギリギリの 選択。恐るべき判断力が問われる、立てるべき、同じ課題は、「まこと」の人生に、繰り返し、起こって来る様になってゆく。
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もし、その、待ち受ける「魔女」による、狡猾な誘惑に負けて、飲み込まれたならば、たちまち、暗闇の怒りの鉄槌に撃たれ、妄想に汚された脳が、潰され、破壊される。 「悲劇的な死」を招く不気味で、不可解な、恐怖に襲われていく。
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「まこと」のゆくみちは、必ず果たさねばならないし、失敗が絶対に許されない、究極の選択の、厳しい、修道所の修練道場だった。
「まこと」の青春時代の、人の出会いの連続は、いつしか本物の「正しい主人」に出会い、日の本の、「光の備え」の雛形を築いてゆく、稀なる、特殊な世界だった。
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０、 ①、軽卒な人間。
おわり。
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①、丘。 浅。 ②、蛤。 茨。 ③、膳。
--------------------------①、丘の記憶。 浅い軽卒。
②、蛤の記憶。 茨の記憶。 ③、据え膳。
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つづく。 次。 蛤の記憶。
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「ポチよ、
泣かないで。」
１、少年編。 一部紹介。
昭和二十九年、犬の地形の前足にあたる小さな海岸沿いの村に、「信。（まこと）」という男の子が生まれた。
「まこと」は物心がつくようになると、兄の私（のりお）のあとを追って、ヨチヨチと歩くようになった。
私は、九歳年下のそんな弟が可愛くなって、（いい遊び相手になるぞ…。）と思い始めていた。
やがて、「まこと」が、六歳になった時、彼の未来を暗闇に引きずっていくきっかけとなる、ある不思議な事件が起こった。
その日は足元から底冷えする寒い朝だった。
「のりおー！。」
母親のチカが、妹の授業参観に行く為に、着物に着替えてから、二階に上がって来た。
… 省略。
「のりおー！、母さんは出かけるけんね。あと頼んだよー。」
試験勉強中だった、のりおは、机に向かったままの姿勢で、生返事をした
「うーん。」
チカが襖の前でふと振り返ると末っ子の「まこと」が、祖母ゼンのタンスの前にポツンと座っていた
（あら…？。）
「まこと」の様子がおかしいのに気がついて、チカはしばらく見つめた。
… 省略。
「まこと」は、膝を抱いて丸くなり、寒さに耐えながら、ブルブルと小刻みに震え、歯をガチガチと音を立てていた。
「おかしかねー…。ほら、のりお、ちょっと見なさい。「まこと」が、寒がっとるから。」
のりおは、勉強を中断して机から離れて、襖の横から「まこと」の震える姿を見た。
「おっ。」
「あんた、火をおこして、コタツ を入れてあげなさい。」
「う…、うん。」
チカは、のりおに細かく指示して頼むと、妹のかつえの授業参観にすぐ出かけていった。
「「まこと」ー、ちょっと待ってろよ。」「う…ん。」
のりおは、早速、押入れの前に敷布団を敷き、その上に瓦コタツ
を静かに置いた。炭火をおこすために、いそいそと階段を降りていった。
… 省略。
やがて、のりおは瓦コタツの中央に、赤い炭火を丁寧に移すと、上から掛布団をかけた。
「よーし！、出来たぞー、さあ、「まこと」ー。 はいれ！。」
「まこと」は、暖かい布団に滑りこむように潜り込むと、すぐ安らかな表情になった。
それを見届けたのりおも、すっかり安心して、襖を閉めて、隣の自分の部屋で再び勉強を始めた。
… 省略。
…省略。
誰かに見られているような気配がして、「まこと」は、ふと左の、とこの間に顔を向けた。
そこには台の上に立てかけてあった遺影写真が見つめていた。１６歳で志願して満州に出征した兵隊姿の叔父の(よしき)と目が合った。
（ん…？、なんだろう…？。）
その意思を探ろうと、しばらく兵士の目を見つめていたが、突然胸をかきむしりたくなるような激しい、むな騒ぎに襲われた。
険しい茨（イバラ）のような霊に支配された時、写真の兵士がフワッと動いたような気がした。
「まこと」は恐ろしくなり、咄嗟に目を背けて布団をかぶった。
炭火の入った瓦コタツを強く抱いて丸まり、恐怖の思いを必死に忘れようとした。
闇の中にくすぶる赤い炭火を見つめながら、ただ心臓だけ
が、「ドキン。ドキン…。」と、はや鳴りに脈打っていた。
…省略。
もはや誰の助けを呼ぶこともできず、あきらめてじっと耐えていたが、次第に意識が薄れていった。
「まこと」は不思議な息苦しさの中で、いつしか心地よい深い眠りの世界に入っていった。
どの位の時間が過ぎたのだろうか…？。 「まこと」は日なたで猫と遊んでいる夢を見ていた。
その頃、母のチカは、妹の次女、かつえの授業を参観していたが、急に何か激しい胸騒ぎを感じて、教室を途中で抜け出して早めに帰って来た。
… 省略。
ゼンがおそるおそる二階に上がって見たが、布団が一枚あるだけで辺りはシーンと静まりかえっていた。
（あら？、おらん…。）
孫が隠れていそうな布団を見つけ、静かにめくってみると、全身肌を桃色に染めて丸くなっている孫の姿を見つけた。
… 省略。
「「まこと」ー！、「まこと」ー！。」 …
「ああ！、チカさん！。チカさーん！。」
…省略。
「チカさん！。「まこと」が、死んだごとなっとるばい！。」
「まこと」を抱えたゼンが叫んだ。
… 省略。
「「まこと」！。「まこと」ー！。」
頬を何度たたいても起きなかった。チカはすぐに決意した。
「ばあちゃん！うちがすぐ病院に連れて行きます。」
チカは大急ぎで階段を降りていった。
その時、兄の のりおは、隣の部屋で勉強していたが、急いで追いかけて降りて来た。だが、チカの背中でダラリと死んだようになった弟の姿を見ると、みるみるうちに、血の気が引き、青ざめた顔になった。
チカはまことを背負って、あわただしく玄関から駆け出した。
近くの橋に差し掛かった時、突然、海側のほうから、冷たい風が、
ピュウゥゥー…。と強く吹きつけた。
まことを包んでいた暖かい（もや）を一瞬に吹き散らすかのように、チカの背中を通り抜けていった。
… 省略。
「ポチよ、泣かないで。」
１、少年編。一部紹介。おわり |
