【内容】。 「訓練の意味」を求めて放浪する青春回想記です。竜宮の玉手箱の謎を解く鍵となる、封印された記憶。…英霊のポチ。
　小説、風刺画、謎解き、「閃きの宝箱」。日本人の存在意味を探る、真理探求企画です。

　【一言】。 四行詩の教訓、格言。随想、激励文集。苦悩する「青春の闇」との闘いを描いた、放浪体験記、回想文集です。
　　さまよう現代の浦島太郎の再現。予言成就。開けて驚く白煙。「奇跡の大転換。」

　　
　（ここはもしや、星クズ達の集積場なのか？。ならば、ここでのシュの訓練の意味とはなんだろうか。）

　（これから先も、虚しい物売りをいつまでも続けて、果たして自分の人生が輝くのだろうか？。）

　闇の中で自分の未来を想い浮かべても、そこには底知れない、深い暗闇があるだけだった。

　私が通過した、若き日の苦悩のテーマ (シュの訓練とは一体なんなのか…。)という課題であった。
　
　

　

　初心に戻って考えれば、そもそも、献身の動機が、、「シュの訓練」を受ける為に、この組織に入ろう。」　

と決意した事を思い出す。伝道師からの手紙にあった、「私の子よ。シュの訓練を軽んじてはならない。

　シュに責められる時、弱り果ててはならない。　シュは愛する者を訓練し、受け入れる全ての子を、

むち打たれるのである。」(ヘブル書12の5から6）…この聖句で、シュの訓練の日々が始まった…。
　
　

　

　「あなた方は、訓練として、耐え忍びなさい。神は、あなた方を、子として取り扱っておられるのである。

　一体、父に訓練されない子があろうか 。」(ヘブル書12の7）、…あの時、確かに自分への言葉に感じた。

　「全ての訓練は、当座は喜ばしいものとは思われず、むしろ、悲しいものと思われる。しかし後になれば、

それによって鍛えられしものに、平安な義を結ばせるようになる。」 (ヘブル書12の11）。（ああ。そうだ…。）
　
　

　

　私は20歳前に、聖書の「神の言葉」に出会った。 当時、天神駅の街頭で、フラフラとさまよっていた。

　左翼活動が原因で、鉄工所を辞めて、進路を迷っていた頃に、ある教団の女性伝道師に出会った。

　「個人から、世界の問題まで、全てを解決できる真理を聞きたいと思いますか？。」　私は「はい。」と、

答えて、修練会に連れられ、講義を聞いた。「共産主義は悪魔の思想だ。」という字幕が貼ってあった。

　

　

　（聖書。神。悪魔？。）　　当時、唯物論思考の洗脳の頭に、突然、新たな幻想の霊がかけめぐった。

　（確かに、暴力ではなく、愛で世界平和に導く方が正しいなー。）　一瞬にして左翼洗脳が解けていた。

　教義に、偉大な力を実感した、最初のきっかけだった。　「復帰摂理の歴史観」は、唯物史観に遥かに勝る、

神の救済意志を示す、「法則的聖書歴史観」だった。　その後、彼女から、勧誘の手紙が来るようになった。
　
　

　

　私は以前、左翼思想にかぶれて、両親たちに落胆と迷惑をかけたばっかりで、これ以上、

心配をかけたくなかった。「入信」を、勧める電話や手紙が頻繁にあったが、あえて冷淡を装って、

胸の高まりを抑えながら、曖昧な対応をして、答えを避けていた。講義は何度かは受けてはみたが、

まだ内容はよく判らない。（そんなに簡単に真理に出会える筈が無い！。簡単には信じられない。）
　
　

　

　冷淡に拒み続ける私に、根気づよく、聖書の言葉を引用した、入信を勧める手紙が送られてきた。

　固く閉じた心を少しづつ開かせる不思議な力の手紙が、彼女から更に送られてくるようになった。

　（貴方と一緒に、この道を歩む日が来る事を、楽しみに待っています。）という「誘惑の言葉」と共に、

　この「せい句が書き添えてあった。これがシュの訓練の出発点で、心を揺さぶる衝撃的な言葉だった。
　
　

　

　（そうだ。確か、あの時…、私はこの言葉で激しく心が揺れ動いたのだ。）入信時の頃を回想していた。

　聖書の、み言葉から伝わってきた強いメッセージ。全身に電撃が走る「使命感」を思い出した。

　（私は、シュの訓練を受ける為に、この「教団」に入らねばならない。）と、直感的に閃きを感じた。

　あの閃きは、一体なんだったのか。 あの頃、感じた、新鮮な喜びは、今はもう消えてしまった。
　
　

　

　暗闇で、このせい句を唱えてみた。だが、シュの訓練の言葉は、もはや色あせ、感謝出来なかった。

　（シュよ。私はもう、シュの訓練が喜ばしく思えなくなりました。目を閉じても、開けても、全て、

深い悲しみの闇しか見えません。この道が、やがて鍛えられしものに、平安な義を結ぶなどとは、

到底思えません。この組織での、シュの訓練は、今の私には、不義と不安しか生み出しません。）
　
　

　

　私はこの時、シュの訓練の意味を勘違いしている事に気がつかなかった。シュの混同があった。

　入教する時は、教団を神の用意した訓練場と確信して献身したが、中で活動しているうちに、

シュが地上の教祖に降臨して、神自ら、そっせんして訓練してくれる感覚になっていた。自分を導くシュと、

教祖を導く、シュの、二つを混同して、いつしか、「訓練」の意味を取り違えていたのだった。
　
　

　

　夜の海に向かって、祈っていた。（毎日、嘘つきな物売りで、闇夜を歩く事が、シュの訓練なのですか？。）

　（私は、もうこれ以上、一歩も進めません。シュの訓練を重んじる意味が、判らなくなりました。）

　（教えて下さい。この組織を去る事を、どうかお許し下さい。）　　…私の脳裏に左右二人のシュが現れた。

　（決して、訓練を拒絶するわけではありません。私だけ特別に、他の訓練の道を行かせて下さい。）
　

　

　（今の闇を、卒業出来るのなら、私は孤立しても構いません。たとえ生涯、孤独でも、受け入れます。）

　(…。) （シュよ、答えを聞くまでは、いつまでもここを去りません。）(…。)（どうか答えて下さい。）

　(…。) 決死の覚悟で、いくら問いかけても答えは無かった。長い沈黙の時間が虚しく過ぎていった。

　夜明け前になり、失望と空腹と疲れで、目まいが起こり、薄暗い砂浜に、崩れ落ちるように突っ伏した。
　
　

　

　「私は、この道を離れると、決めました。承諾下さい。」 　…その時、左側のシュが、フッと消えた。「あっ…？。」

　伏せた頭に、仄かにシュの光がてらし始めた。組織を超えた、遥か高い次元に、そのシュの霊を感じた。

　（い出よ。ここでの訓練は全て終わった。あなたは、ここを出て、次の備えられた道に進みなさい。）

　組織への決別を示した時、「卒業だ。」との声。後で判るが、これが本来の「シュの訓練」の意味だった。
　
　

　

　私は、シュが用意された、卒業試験。暗闇のシュと決別する 「迷いの闘い」に勝利したのだろうか？。

　シュの訓練とは、組織の教義を踏まえた上で、次の「新しい道」が、待っている事を示していた。

　月と星空の、薄暗い道に、夜明けの光が仄かにさし、やがて橙色に輝く、暖かい曙がてらしていく。

　この光景は、私の記憶から、一旦封印されたが、後々、新たな段階での「出発の印」となってよみがえる。
　
　

　

　暗闇を通過したのは、やがて、「正しい主人」を迎える時に、必要な「光の道の備え」の為である。

　いつか、「本番舞台」が来た時には、教義に隠された本当の「選民の備え」の雛形が必要となる。

　「完全投入せよ！。」という性急な、仮の主人の言葉に惑わされ、備えるべき、力を今、出し尽くしては

ならない。今はそのまま、受け取らず、きたるべき、本番の舞台の時に、発揮する為にしまっておくべきだ。
　
　

　

　私が従うべきシュは、仮の主人ではなく、「闇にとどまらず、次へ進め。」と示す本来のシュだった。

　私は大切な教訓を得た。組織で用いる、「神の目的や、命令」は、訓練の仮舞台のセリフであって、

本番舞台ではない。虚しい嘘つきの物売りをしに来たわけではない。真理を極める為に来たのだ。

　私は暖かく包み込む、シュの気配を感じた。（あなたは卒業し、信じる道を貫いて生きなさい…。）
　
　

　

　わが、内なるシュの声は、新たな孤独の旅立ちを促していた。教義ではなく、「聖書」を通しての誓い。

　せい句の奥にある、「シュの霊」との出会いに、懐かしい、真実のメッセージを探し当てた。

　いつしか、混同した、ふたつのシュを、「仮と本物」とに明確に分ける課題は、まだ先に残されていたが、

ひとまず、「仮」を卒業して、本番舞台に向けて備えていく、孤独な「新しい道」が、動き出していた。
　
　

　
　その頃、教団では、「祝福祭典」が近づいていた。その儀式は、教祖を中心に、信者同士が家庭

をもち、生涯捧げる事を、神に誓う契約だった。理想の相手と出会う、互いの意思の結婚観ではなく、

　「教祖が決めた相手と、家庭をもつ。」という押し付け的な結婚観に、不安と拒絶感を抱いていた。

　（これ以上、とどまると逃れられなくなる。）と、焦るような思いが、密かに脱出の時期を急がせた。
　
　

　

　（早くぬけ出そう。）と思っている処に、今まで遠かった信者達が、親しく近づいていた。兄弟以上に、

ふれあう心が、暖かく感じた。同じ価値観をもち、共有する目的に向かう、仲間の居心地の良さか、

いつのまにか、孤立から、大勢の仲間の中にいた。慣れてきた場を離れ難くなった。自分から縁

を切るなど、思いもしない位に、尊く感じた。「孤立しても構わない。」と誓った事を忘れていた。
　
　

　
　大勢の仲間に包まれると、あれほど決死の覚悟で誓ったことさえも、見失ってしまうものなのか？。

　孤立していた自分と、集団に居る自分と、一体、どちらの心が正しいのか、静かな渦巻きに吸い込まれて、

行くべき方向を見失い、闇をぬけ出す必要性も忘れていた。一人、離れて孤立する道よりも、

　皆で渡れば怖くない赤信号と同じ、不法で危険な道でも、滅びの道 が心地よく感じられた。
　
　　

　

　集団の中で、（迫り来る、闇から出よ。）という声は聞こえなくなり、脱出の決意が、次第に薄れた。

　いつのまにか、組織への依存的体質に包まれて、約束を忘れて背いた、自分にも気づかなかった。

　教団の中でしか、通用しない価値観を、そのまま受け入れ、有りもしない幻想に、判断を狂わせていく。

　ぬけ出す理由も、機会も忘れていた。脱出の意思が麻痺して、ほとんど半永久的に保留になった。