長編小説 �U　第１部　−　チカ修練時代 　　　　　　　　第２部　−　チカ定着時代 　　　　　第３部　−　チカ激闘時代

長編小説 「 光の道を備えよ！」 �U闘争編　第３部 （チカ激闘時代）

　嫁として入って来たチカが 両家の願いを一致させるための条件を失ってから 家の柱となる筈の 大切に育てて来た山の木を奪おうとする 狐のような男が現われて来るようになった。

　チカは必死でそれを取り戻そうと努めたが どうあがいてももはや無理であった。　チカが失った条件は 山での闘いを長引かせながら 家を建てた後にも大きなしこりとなって残っていく。失った条件を山で立て直しながら「今井家の人間」として定着するための試練がこれまでの闘いであった。●

　いつの間にかチカは自ら率先して 一家の最前線に立って戦う 意志と根性を持った逞しい母親になっていた。　山での闘争は結果的に見れば これから襲いかかって来ようとしている 家での激しい戦いの予行訓練の場になった。

　チカの山での戦いは やっと終わりを告げようとしていた。そして今度は 物置小屋を建てて 使わなくなった「眠れる道具」を床下から出して 家宝として大切に棚に納める時が近づいて来ていた。　いよいよ「穢れ無き清い供え物」の形を完成する その最後の仕上げをしなければならなかった。

　だが チカがどんなに頑張っても 山で奪われた柱となる木を取り戻せなかったように そののち その家宝の道具を納める小さな「物置き小屋」すら建てる余裕など無くなり いつまでも床の下に埃をかぶった状態で放置されたまま残されることになっていく。

　正喜もチカも毎月 家の返済に追われながら必死に働いていった。家族たちも窮乏に耐え続けながら 贅沢を敵として頑張ったが いつまでたっても 小屋を建てることが出来なかった。
　いつしか チカは忙しさに追われて物置き小屋のことはすっかり諦めて忘れていった。

　こうして 「饅頭を作る道具」は 埃を被ったまま床下に静かに眠る運命になってしまう。　その時から 床の下の怨念が 今井家に不吉な事件を巻き起こして行くようになる。

　それは まず末っ子の信（まこと）に襲いかかった。あたかも信（まこと）の頭を封印するかのように 未来に大きな艱難を巻き起こす原因となる事故が偶発的に起こって行く。

　それ以後 今井家の周りから 水や木や土地を奪おうとする忌まわしい狼のような隣人たちが現われ 艱難と災いがたびたび試練のように発生して来るようになる。

　純朴で裏表が無く 人の言葉をそのまま信（まこと）じて簡単に騙されてしまう お人良しの今井家の人間に代わって 嫁として入って来たチカが この「今井家に与えられた土地」を死守しなければならなくなった。

　それはチカが「中心人物」となり 襲いかかる狐狼のような隣人たちから 「一本の大切な木」を守り抜く使命があった。

　そしてその前にまず その木を象徴する人間を包み 守ってくれる神殿のような空間を まず先に築きあげたという条件を立てなければならなかった。　これは「光の道を備える」ために どうしても勝利しなければならない「最後の戦い」であった。

　だが 祭壇となる小屋に道具を入れる前に ほんの僅かの油断によって 三つの黒い存在が侵入する。　この事件により これまでチカが立てようとした全ての条件が奪われてしまった時 まるで息子の信（まこと）はこの世に捨てられたかのように 孤独な暗闇の道を歩いていくようになっていった。

　やがて 長い長い歳月が流れ 信（まこと）が放浪の果てに光を取り戻して 家に帰って来る時 チカは全ての疑問と苦しみと悩みから開放され 「激しい戦いをして来た自分の一生が何であったのか」を知り わが人生を振り返るようになっていく。
　
　

　　　あらすじ

　やっとの思いで家を建て直したものの 物置小屋を建てるまでの余裕がなかった。
今まで古い家の二階に置いていた「饅頭を作る道具」を置く場所が何処にも無かった。チカは「もう処分したらどうですか？」と姑のゼンに提案するが ゼンはどうしても捨て切れなかった。　チカは仕方なくその道具を床下にほうり込んでしまう。

　そのまま埃を被った状態で何年も無造作に置かれることになっていく。　そのような中で子供たちは床下に眠る道具が何を意味するのか知らないまま すくすくと育っていた。　チカは この「眠れる道具」が全く役に立たない邪魔なガラクタにしか見えなかった。（もう二度と使うことはないのに…）と思って大切にしなかった。　この時から この道具と同じように信（まこと）の魂も封印される事件が起こることになっていく。

　それから次々と家の周りから試練が襲って来るようになるが それでもチカはその意味と原因に気が付かなかった。
　その時 あたかも無理にでも大事な家宝として道具を納めさせるかのように 最後の大きな艱難が起こる。　チカはこの災いが起こる前に ある不思議な直感が閃いて 防波堤の役割をすることになる ブロック小屋を建てることを思いつく。

　だが その最後の仕上げの段階で３つの黒い存在に浸入され チカが立てて来たすべての条件が奪われてしまう。それでも 道具はなんとか納められたが 信（まこと）の頭の封印が解かれる時は はるか先に延ばされ 再び眠り続けることになっていく。　もはや信（まこと）は 眠りから醒める時を失ってしまい 再び黒い霧が頭の中を覆った。その暗闇の中に包まれてしまった信（まこと）の心を 二度と目覚めさせないように 信（まこと）の命を狙う死神が 刻々と近づこうとしていた。

　だが死神が襲いかかって来た時 チカは身を挺して信（まこと）の命を守り抜く。その瞬間から チカの使命は信（まこと）に受け継がれていく。そして回り道をしながら その奪われた条件を再び立て直すために チカが通った茨のような道を たった一人で歩いていくようになる。

　やがて永い年月をかけながら いよいよ最後のおわりの時が近づく時 信（まこと）の眠れる魂が目覚め その母の戦ってきた人生の意味と 今井家の使命のすべてを解き明かしていく。

　　　　　　奪われた条件

　その後も ブローカーたちの威圧的な訪問や 嫌がらせが続いていた。父の言いつけで信（まこと）は 障子の影や 飯台の下にテープレコーダーを仕掛けて 脅しに来る人の会話の一部始終を録音して対応した。

　（そのテープレコーダは 信（まこと）の英会話の勉強のためにと母が買ってくれた物で 当時としてはよその家よりは随分早めに買っていたものだった。信（まこと）は英語の勉強が嫌いで ちっとも勉強のためには使わず遊びにばかりに使っていた）

　ある日曜日 裏隣の人とブローカーたちが話に来るとの連絡があった。チカは階段の所から 「信（まこと） テープレコーダーをちょっと貸しなさい。すぐ持って来なさい！」と叫んだ。　信（まこと）は（何に使うのだろうか？）と不思議に思いながら すぐに持って行き その操作の仕方を簡単に教えた。　その日から 信（まこと）は大切な録音係になった。　この時 今井家の一家全員が土地を守るために力を合わせて 団結して戦った時でもあった。

　本来 策略的なものには全く縁が無く のんびりゆったりとした血筋を持つ今井家だったが 最前線に立って戦おうとするチカの気概に引き上げられて みんなも闘うようになった。　土地を奪おうと 様々な策を弄して襲いかかって来る隣人たちに対して かつてこれ程 今井家の家族全員が 一致協力して闘ったことは無かった。
　チカを中心にして 皆が力を合わせて この家の土地を守り抜こうとしたのだった。

　だが 残念ながら 折角完成した神殿の象徴であった小屋は その棚の上に 家宝を納める直前に 既に三つの黒い存在が浸入してしまう条件を許した後だった。　それは（完成した小屋の棚に一度寝てみよう・・・）と思っていた信（まこと）を あたかも邪魔するかのように 突然浸入した 忌まわしい３つの黒い影であった。

　その黒い存在は これから信（まこと）が「光の道」を示す家宝を見いだしていくまでに 降りかかるであろう 立て直しのための 三段階の大きな艱難を表わしていた。そして それはやがて今井家と田口家の親族全てに波紋を起こしていくようになる。

　目覚めようとしていた信（まこと）の魂は 再び眠り続ける運命に置かれることになった。これ以後 あたかも廻り道するかのように 信（まこと）の人生の歯車が 暗闇に向かって大きく逆回転しはじめていった。その事件は 凡人の目にはたわいのない出来事に見えたが 信（まこと）に託された僅かな示唆で その供え物を一点の曇りもない聖別されたものとして完結すべき条件が残されていたのだった。

　そして この失敗はチカの責任というよりも 紀生を叱った父の正喜の責任でもあり 叱られて急に姿を消した紀生の責任でもあった。
　また 不吉な前兆に気付きながらも つい母に頼ってしまい 自分で防ぐことをせず 人任せにして何等かの対処もせずに 見過ごしてしまった信（まこと）の責任でもあった。

　いわば 偶発的に生じたこの事件によって 無くした条件を取り戻すために 今井家の全員が償って行かなければならなくなっていく。

　チカが基礎を作り あと少しで完成する直前の所で ふいに侵入してきた黒い存在は 紀生のやり残した使命を全て奪って行った。その 奪われた条件は 今までの苦労と実績を 全て無に帰してしまい 再び 一から立て直すべき課題として残っていった。それは信（まこと）が中心人物になって辿る ３段階にわたる「暗闇の道」を暗示することになっていく。
　
　

　　　　　　猫の生涯

　信（まこと）が小さい頃 お腹を大きくしたミケが 押し入れの戸口をガリガリやっていた。ゼンは戸を開けたままにしてやり そこにボロぎれを敷いてあげた。ミケは産み月になると 陣痛が襲うのか ゼンにしきりにねだっては お腹をさすって貰っていた。

　やがて子猫が何匹か生まれると ゼンはその中で良い毛並みの猫だけ残して 目が開かないうちに他の子猫を海に捨てに行った。５，６匹生まれた中で ２匹だけ残してあげた。１匹はメスの三毛猫 ２匹目は白と黒の雄猫だった。それぞれ姉「ミー」と弟「チョン」と名付けた。

　姉のミケ二世は 餌を食べてもちっとも太れなくて痩せて死んでしまったが 弟の白黒の猫は 次第にがっちりとした雄猫になっていった。
　ミケの息子の「チョン」は 小さいうちは母親のミケの傍にいつもついて 仲良くご飯を食べていたが 次第に食べ盛りのチョンがミケのご飯まで食べてしまうようになり ミケに「フーッ！」と怒られてしまい 戸惑いと驚きで寂しそうな顔をして逃げた。

　そして仕方なく台所の棚の上に上がっては ふてくされて寝ることが多くなった。　チョンは日の当たるその場所が何より好きだった。チョンは黒と白の雄猫で チャップリンのように鼻の下に黒いヒゲのような模様があって 信（まこと）にとってはなかなか愛敬があって可愛いかった。　だがチョンは 何故か他のみんなからはいつも笑われてしまうのだった。　ある日 紀生はそっと近づいて 棚で昼寝しているチョンの姿を 写真に撮ってあげた。

　ミケとチョンたちは たくさんの饅頭屋の道具が新聞紙に包んで置いてある床の下をいつも自由に出入りしていた。　そこはミケとチョンには安息の空間が有った。　信（まこと）は夕飯を食べていたが いつものように 味噌汁に入った「いりこのだしがら」が嫌いで 皿に移して食べ残した。

　「ご馳走さまー！」と言うと 「いりこのだしがら」を猫にあげようと「ミー！ チョン！おいでー」と呼んで皿を廊下に置いた。だがいくら呼んでもすぐ来ないので 板張りに膝を付いて体を乗り出して床下を覗いて見た。

　薄暗い床下には かすかに猫たちがうごめいているのがわかった。しばらく目が慣れるまで 目を凝らして見ていると 新聞に包まれた道具の中に潜んでいたチョンが 破れた新聞の穴から顔を現わした。そのチョンの傍にはミケがいて、チョンを静かにじいっと見ていた。闇の中に四つの目がギラギラと光っていた。

　床の下にうごめく猫たちが 何か怪しげな秘密めいた行動をしているようだった。　何か見てはならないような大切なものを見た不思議な感覚がよぎった。それが何であるのか 幼い信（まこと）には悟れなかった。信（まこと）はしばらく猫たちの様子を見ていた。

　やがて 先にミケがやって来て食べ始めると チョンも「ニャーン」と鳴きながら 新聞の破れ穴から抜け出して 素早く走って来て嬉しそうに食べた。　

　チョンはすっかり大きくなっていた。年頃で発情期になったのか やたらと家のあちこちにオシッコをかけるようになった。母はそんな行儀の悪いチョンの鼻をピン！と強くはじいて叱った。　チョンは母のチカの姿を見ると怖がって ちっとも近づかなくなってしまった。　それからしばらくして チョンは外に出たきり何日も帰って来なくなった。放浪ばかりしていて めったに家に帰って来なくなったのだった。

　信（まこと）は心配になってゼンに聞いた。　「チョンは何処に行ったのやろか？」「雄猫は大人になったら山に修行しに行くとげなばい」「ふーん・・・」信（まこと）はチョンが山にこもって彷徨っている姿を想像して （いつか逞しくなってチョンが帰って来るまで待とう・・・）と思った。

　信（まこと）は 学校が終わると猫とばかり遊んでいた。三色の毛色の模様を撫でたり見てるだけで 信（まこと）の心を和やかにするのだった。　る日 裏庭で遊んでいて ふと見ると ミケの息子の「チョン」が忠霊塔に続く坂道を登って行こうとする姿を偶然見つけた。

　（あ チョンだ 久しぶりだなあ・・・）　信（まこと）はチョンの後をそっとつけて行った。　　チョンはピョンピョンと登って林の中に入ろうとしていた。誰かが来る気配を感じて振り返り 後ろから見ている信（まこと）に気がつくと 驚いたように目を丸くして「ニャーン」と鳴いた。　白と黒の毛並みは寒そうだった。

　「チョン。おいで！」　信（まこと）はチョンを呼びながら 手招きして丘の上に先に登って行った。　久しぶりにチョンに出逢った信（まこと）は 忠霊塔の芝生の生えた広場に寝転がったり 暖かい日だまりの中で戯れ 追っかけっこをして遊んだ。

　信（まこと）は暖かい日差しが気持ちよくて しばらく動きを止めて死んだふりをしてみた。すると チョンは急に動かなくなった主人を心配して「ニャン ニャーン？」と驚いたように鳴いて戻って来た。静かになった信（まこと）の体に頭をしきりに擦り寄せて起こそうとした。

　だが 死んだように動かない信（まこと）の頬と耳を心配そうに一生懸命に舐めて来た。　信（まこと）はくすぐったさにこらえきれなくなり 「あ アハハ・・・やめろ わかった わかったよ」「ニャーン！」「ごめんよ 驚かせて」　チョンは 生き返った主人に安心したのか「ニャーン」と嬉しそうに鳴いた。

　ところが それからしばらくして そのチョンが何処かで悪いものを食べたのか よだれを流しながら帰って来た。　あんなに骨太でガッシリしていたのに みるみる痩せていき そのままあっけなく死んでしまった。ゼンは小さなクワを出して来てビワの木の傍の裏庭を掘り 軽くなったチョンの亡骸を抱いて埋めてあげていた。信（まこと）はそのゼンの後ろ姿を何故か不思議な思いで見ていた。

　ミケは 急にいなくなった息子のチョンを死んだとも知らずしばらく捜し廻っていた。信（まこと）は 床下に入っていったミケの様子をしばらく見ていた。ミケは鳴きながら 床下のチョンがいつも隠れ家にしていた新聞紙の穴に顔を突っ込んでのぞいていた。　いくら捜しても見つからず 取り残されたように 寂しそうな声で「ニャーオン？・・・」と何度も鳴いていた。

　それから何年か経った。ミケももうだいぶ年を取って すっかりおばあさんになっていた。　ご飯にいりこの入ったみそ汁をかけてあげた。「ミー！おいで」と呼ぶと ヨロヨロしながら床下の道具を包んだ新聞の穴から出て来た。　いつの間にかミケもチョンの好きだった饅頭の道具の中に住んでいた。

　ミケは 鳴き声が「ニャハア・・・」と途中で声がかすれて出なくなっていた。　信（まこと）はミケにご飯をあげながら ミケのかすれた鳴き声を真似をしてみた。「ニャハアアア・・・」すると「ミケはもう年寄りやから声がよう出んとばい…」傍で見ていたゼンがミケをかばうように寂しそうに言った。

　信（まこと）が中学生になったある日 今度はミケが突然 口からよだれを流しながら帰って来た。　信（まこと）が抱えてあげたが全く元気が無く 軽くなっていた。それからというもの 餌をあげても何も食べなくなり 日に日にやつれて痩せていった。　「ミー 食べないの…？」　ミケは御馳走の皿を見る力も無く 毛づやが荒れたまま戻らなくなって 弱っていくばかりだった。　「ミーは何処かでフグのキモでも食べたとかも知れんばい…」　ゼンは悲しそうにつぶやいた。

　信（まこと）の一つ上の姉（勝江）は そんなミケを抱いてわらの篭の中に入れてあげた。「信（まこと） もうこれがミケの最後の見納めだよ 今のうちによく見ておきなさい」　信（まこと）は可哀相に思ったが 何か他に用事があって その息を引き取るまぎわの姿はとうとう見取れなかった。

　だが 勝手口の床下に置いたわらの篭（かご）の中で冷たくなった死骸を 静かに心に焼きつけた。　ゼンは 死んだミケの亡骸を抱いて 裏庭の桃の木が生えている傍をクワで掘って そこに埋めてあげた。

　この時 小屋に納められた道具は 既に黒い存在の侵入によって条件が奪われ 聖なる供え物ではなくなっていた。　だが 玄関の方に作った床下の戸の奥には 道具の一部が残されていて 穢れなき空間がかろうじて残っていた。

　ミケはどうにかして 元の「安らぎの空間」に戻ろうと家の周りをグルグルと廻り （何処か入り込める穴がないか？）と 行ったり来たりして探していた。信（まこと）はなんとなくミケが何を考えているのかが判った。そっとミケの後をつけていった。

　ミケは空気孔の隙間を見つけると 爪でガリガリと引っ掻いていたが 後ろから心配そうに見ていた信（まこと）に気がつくと 振り返って「ニャ…ン…」と かすれた声で信（まこと）の顔を見てすがるように鳴いた。

　信（まこと）はミケが可哀相になり 勝手口のセメントをハンマーで叩いてみたが とても崩せる厚さでは無かった。　いつも「ガリガリ」と何か忘れ物をしたかのように 必死にもがいて入ろうとするミケをなだめた。「ミイー 駄目だよ もう中には入れないよ・・・」セメントをガリガリと爪立てていたミケの手を押さえて 抱きかかえていつも慰めていた。

　「ミー ごめんねー もうあきらめなー・・・」　ミケはいつも止めに来る信（まこと）を見ると 叱られると思ってか 耳を閉じて目をつぶった。悲しそうに鳴こうとしたが もう声がほとんど出なかった。　

　そんなミケが何故か 最後の力をふりしぼるかのように 床下が見えるわずかの隙間のある勝手口の場所の前で死んで行った。　信（まこと）は何故かミケが無念の思いに苦しみながら息を引き取っていったように思えた。

　あっけなく死んだチョンを葬ってあげたゼン そして憂いを秘めて必死に床下に戻ろうと もがきながら死んでいったミケの姿。 これらの一連の出来事は 今井家が辿って行くであろう歴史を象徴的に再現して見せてくれていた。それは芳喜の英霊と遺族の喜平とゼンたちの「心の嘆き」をも表わしていて ゼンと信（まこと）との引き返すことの出来ない 二人の遠い別れの「悲しき宿命」をも暗示していた。

　　　　　　信（まこと）の暗黒時代

　そんなことがあってから 信（まこと）の頭の中は鉛のような重い物が覆うようになった。ぼんやりとすることが多くなり 学業もうつろで全く集中力が無くなり 勉強がおろそかになっていった。

　だが （自分が何故 普通の他の子みたいに勉強に集中できないのか？） その理由は判らなかった。　どんなに勉強しようとしても 何故か信（まこと）の頭の中に何度も反復する雑念が入って来ては 意識を分散させて 読んでいた本の内容を理解するすることを困難にさせた。頭の中に不思議な妄想が湧き起こり 過去の出来事がフラッシュのように現われた。壊れたレコードのようにグルグルと昔の記憶の回想が繰り返されて時間が過ぎて行った。

　チカは 今井家に託された「闘い」に忙しくて 息子の信（まこと）のことに全く気が廻らなかった。だが ここに来てやっと 信（まこと）の様子がおかしくなってきていることに気がつき 初めて心配するようになった。チカは今の今まで 子供のことを犠牲にして 外敵からの「闘い」に明け暮れていたことに気がついた。　末っ子の息子のことに気が廻らないほど チカにとってこの「闘い」に勝つことが 死守すべき大切な課題であった。

　ある日 チカは学問の神様 太宰府天満宮に行ってお参りして お守り札を貰って来た。だが ちっとも息子の成績は上がらず 御利益が無いのを不思議に思った。　同年代である３人の従兄弟の中で 全てに於て格段に劣っている自分の息子に 何の自慢も出来るところが無かった。「白痴」のようになってしまった信（まこと）に失望させられていった。

　それでも 姑のゼンだけは 親戚の人が来ると 小学校の時に取った たった一枚の「百点の答案」を出して見せてしきりに自慢していた。信（まこと）は ゼンに過去の自慢しか させてあげられない事を いつも申し訳なく思って見ていた。

　今まで信（まこと）と良く遊んでいた近所の友達も 精神の成長が止まった 幼稚で何も知らない信（まこと）とは話が合わず だんだん離れていくようになった。気がつくと 信（まこと）はすっかり異質な人間として烙印を押され 仲間はずれにされていた。

　信（まこと）の心は 学年が上がるにつれて ますます大きく歪んでいった。正常な精神の成長を阻害されたまま やがて学校の集団生活にも 全く適合出来なくなっていった。　内気な信（まこと）は 「異質な自分の存在」を強く意識するようになった。人と関わる時 他人とは全く違う 特殊な自分の心を嫌というほど痛感するようになっていった。

　幼い頃 脳に大きな障害を背負ったことを自分も忘れ 又 それに誰も気が付かず 何一つハンディを与えられない環境の中で 「出来損ないの人間」として見られていった。心と身体のバランスをすっかり失い 誰にも理解して貰えない孤独の苦しさを背負いながら 自分の殻にますます閉じこもっていった。

　「心の窓」を無くした信（まこと）は 他人と関わる苦痛を避け ほとんど誰とも会話をしなくなっていった。　話し方を忘れてしまい 口が重くなり しまいにはとうとう小さな声しか出なくなった。たまに話をしても 口をちゃんと開けて喋れず ボソボソと小声で低く話すようになった。
　心を閉ざしたまま 一人で浜辺を彷徨い歩き 風の音を聞きながら孤独な日々を送るようになっていった。

　この世にたった一人だけ取り残されたような 心細い不安な思いになっていた。生きる力を失ってしまった信（まこと）は 絶望の暗闇の中で 苦しみ悶えながら 自分の心を開放してくれる存在を必死に探し求めていくようになっていく。

　すっかり生きる自信を無くしてしまった信（まこと）は 「重い自閉症」と「極度の対人恐怖症」に陥っていった。ほとんど誰とも言葉を交わさなくなり 人間の感情を失った「白痴の人」のように見えた。

　実のところ チカが立てようとして失ってしまった空間は 信（まこと）の頭の中にある 大切な器官の何かを象徴していた。

　　　　　　消えた兄貴

　この頃 信（まこと）の兄の紀生（のりお）は 東京に行ったまま蒸発してしまい 何年も帰って来ない状態だった。思春期の悩みを一番相談したい時 頼り甲斐のある兄の紀生（のりお）の姿はもうそこには居なかった。　信（まこと）は 東京に行ったまま消息不明になった兄が 四畳半の部屋の棚の上に残していった 箱の中の写真や日記を 何回も開けて読んでいた。

　その日記の中には 兄の恋人のことが書いてあった。その恋人は当時 死病の肺結核にかかって 必死に病と闘って生きていくかに見えたが 中々回復しない病気に 次第に人生をはかなむようになり 陽気だった兄の心をも 次第に暗い影を与えていった。

　信（まこと）は小さい頃 一度だけその女性にあったことがある。何気なく階段を這うように上がって「兄ちゃーん！」と呼びにいった時 兄貴の部屋に見知らぬ女性が座っていた。信（まこと）を見ると「あらっ 可愛いいー・・・」とニコッと微笑んでくれた。　信（まこと）は 見ず知らずの女性が居たので 恥ずかしくなりチラッと見ただけで 急いで引き返して降りていった。

　日記には その女性が 自分の病気を苦にしたのか 「遺書」も書かずに突然死んでしまったことが書いてあった。人生に絶望して自殺したのか それとも睡眠薬の飲みすぎの単なる事故だったかは分からない。

　だが その恋人と死に別れてから 兄の日記の文章は暗い言葉ばかりつづられていった。「寂しい・・・ 淋しい・・・ あの人を追って死にたい」という言葉ばかり埋め尽くされていた。最後には 「人間とは？ 人生とは？ 愛とは？ 何なのですか？。神様 教えてください・・・！」という 兄の悲痛な心の問いかけの言葉が書いてあった。

　信（まこと）は幼い心ながら （暗闇に残されて もがき苦しみながら必死に「答え」を求め続けたであろう兄の紀生（のりお）に代わって 自分が人生の意味を必ず解き明かしてあげたい・・・いや きっと解いてみせる！）と 決意に似た 切実な課題を求めて願うようになっていた。そしていつか兄貴に巡り会った時 その「答え」を教えてあげたかった。

　兄の紀生（のりお）の残した日記を何度も読む度に 信（まこと）はまだ小さかったが 既に兄の紀生（のりお）が持った同じ疑問を持つようになっていた。いつしか信（まこと）は 兄の心にすっかり同化してしまっていた。
　
　この時から 信（まこと）と兄の紀生（のりお）の二人の兄弟が 人生の真の意味を求めて「求道の旅」が始まっていくのである。　やがて二人は東京で巡り会うことになるが その「十年の空白」は 埋めることの出来ない深い溝と憎しみとを二人の間に作ることになっていく。

　３代目の二人の兄弟が 愛する人や大切な家族を犠牲にしながらも 真理という大木の幹に至る旅を続けていく。　兄は知識を 弟は知恵を お互いに別々に求めていく。

　真理に至る一本の木を探し求めて「知識の枝葉」と「知恵の根」との激しい闘いをするようになる。　兄は光りの大空に向かって 弟は暗闇の地中に入って幹を見いだしていく。

　お互いに兄弟の絆を求めながらも 二人は激しい対立と確執を続けていく。まさしく三代目の闘いは 愛する人を失い 絶望の苦海を乗り越えるような壮絶な体験をしながら 行くべき「人生の道」を求めていく「愛と死をかけた真理への闘い」となっていく。　

　　　　　　　（詳細は �Cの求道編で述べたい。）

　
　
　
　　　　　　空　虚

　同級生に意地悪され 奴隷のようにいじめられてきた無気力な中学時代を 何とか乗り越えて卒業が近づいていた。高校進学の話が出て来た時 信（まこと）は（絵を描く仕事に就きたい…）と思っていた。

　「母さん 僕 美術学校に行きたい」「絵描きでは とても生活はしていけんとよ！」　母は忠告し 信（まこと）の希望校を否定した。　母にそう言われると 信（まこと）は何を目指して進んだらいいのか判らなくなってしまった。

　自分の将来を決める意志を無くし ただ母に言われるままに 気が進まない工業高校の機械科に一応進むことにした。だがこの道は 信（まこと）の目指す道では無かった。父の勤める鉄工所の仕事は どう考えても希望も未来も無く 気が重くなるだけだった。

　心の傷が癒えないまま 好きな絵の道も諦めてしまった信（まこと）は 諦めと絶望の道を歩いていた。未来の希望を無くし 若者らしい溌剌とした心は消えていった。自分の行くべき道を見失った時 全身の力が無くなって 近づいてくる全ての人との触れ合いを遮断しがちになっていった。

　こうして白痴化した抜け殻のような 無味乾燥の青春時代が流れていった。厭世的な思いが湧きあがって来ても どうすることも出来ず ただただ 空虚で無意味な日が繰り返されていくばかりだった。
　この時 信（まこと）は ある大きな力で 宿命の道に引っ張られていかねばならなかった。　その宿命とは 一体何であろうか？。

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　かつて日本に黒船が来襲し 西欧列強諸国からの威圧的な解放を迫られた時に 軟弱で弱腰の江戸幕府体制を立て直そうとした若き維新の志士たちがいた。彼等はアジアの国々が次々と西欧に奪われ 植民地化されて行くのを見ながら 迫り来る日本の危機を感じた。　のんびりとした日本民族を造りかえる必要に迫られた。

　この時 幕府に替わる天皇という御旗を掲げて 西欧に負けない強大な国家を造り まとめなければならなかった。この明治維新のあと 諸外国の威圧にも負けない より強大な国力を築くために 「西欧に追い付き 追い越せ！」と 国家総動員に号令をかけていった時代があった。　天皇を中心とした大日本帝国のために働く 忠実な国民を作り上げようと 半強制的な徴兵制度をしいて行った。
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　　　　　　意地悪爺さん

　土地問題は泥沼の長期戦になり 解決しないまま冷戦は続いていた。　そんなある日曜日に 姉の勝江が ボーイフレンドの「神田耕作」という青年を 信（まこと）には内緒で家に招いた。急に我家に見知らぬ人間が前触れも無く現れて初対面の挨拶をした。

　人見知りで 恥ずかしがりやの信（まこと）は 自分の居る場所を無くしてしまった。追い詰められるように裏の境界線に建てた小屋の傍に逃げて行った。一人ぼんやりと庭の木を見て立っていた。　しばらくすると そこへまるで 予知していたかのように 裏の意地悪爺さんが クワを持ってツカツカと近寄って来た。

　「こら！そこで何しよっとか 貴様んは！」　爺さんはいきなり怒鳴った。信（まこと）はびっくりして振り返った。爺さんは今にも殴りかかってきそうな恐ろしい顔をしていた。　信（まこと）は 自分が狙われたことを直感した。

　爺さんは 今まで何度も代理人を立てて 「早く立ち退くように」とゼンや父や母たちをさんざん脅して来た。だが 一行に埓が開かないのでジリジリした挙げ句 強行手段を取ろうとしてブローカーを使って ヤクザみたいな脅かしを仕掛けて来ていた。　その度に 母は（どうしたら良いか？）と 必死に考えて博多のある人に相談しに行った。

　そして その意見を参考にして 自分なりに考えた対処の仕方を編みだして行った。父に対しても「（相手がこう言って来たら こう答えたら良い）と聞いて来た」と事前に綿密なアドバイスや打ち合わせをして、敵に応対するように 相談し合った。　ゼンが相手にしないで逃げてしまうので 仕方無く 彼等は日曜のたびに 現われるようになった。

　「おい！ そんなに言うこと聞かないんなら 裁判にかけるぞ！」「ああ どうぞ どうぞ 裁判でん何でんかけなっせ その方がうちも助かるし 決着が早かでっしょうな」「う・・・」「お宅は 何度もうちに来ては ヤクザみたいなことを言わしゃったですねー。　あんたらの会話は一部始終 ちゃんとうちの息子が全部録音しとるっちゃけんですな！もし 裁判になったら その会話を弁護士さんにも みんなに聞いて貰うことになりますばい」「えっ！・・・」「あんた達が来た時 いつもテーブルの上にマイクが置いてあったのを あなたもよう見て知っとらしたでしょう？」

　「うっ・・・」二人は顔を合わせて思い出した。　確かに来る度に テーブルの上には いつも小さいコードの付いたマッチ箱の大きさのマイクみたいなものが置いてあるのを思い出した。「ギョエー・・・」ブローカたちは 驚いて言葉を無くし 慌てて退散していった。

　その後 裏の爺さんは ブローカからその話を聞いた。今までさんざん脅して来た恐喝めいた会話の一部始終を 今井家の息子がテープレコーダを仕掛けて録音したことを聞いていたのだった。

　「いつもボーとしとる あの馬鹿息子がそんな余計なことをしたのか。生意気な！あのガキめ！いつか覚えていろ！」

　「どうぞ 殴りたいなら殴んなっせ！あたしらはいっちょん悪いことしとらんとやからね！」　母は怯みもせずに言った。爺さんは あまりにも堂々としていたチカに怖れを抱いた。振り上げたそのクワをどうしていいか判らなくなった。「何やー、貴様ん…」と言いながら もう一度振り上げようとしたが 諦めたように力無くクワを降ろしかけた。全然脅しが効かないことを悟ると 急にしょげて「覚えてろ・・・」　ブツブツ吐き捨てると やがてすごすごと退散した。

　信（まこと）と神田耕作は 離れた所から 勇ましいチカの様子を 顔を合わせてたまげて見ていた。信（まこと）は 秘められた母の激しい性格の一面を 初めて目の前で見たのだった。　
　心臓が「ドキン！ドキン！」といつまでも脈打ち 胸を押さえてもしばらく激しく高鳴る鼓動が元に戻らなかった。

　この事件は 信（まこと）が 忠霊塔の周りを新聞配達しながら６年間廻り終えたときに起こった。　裏隣のいじわる爺さんが信（まこと）に襲いかかろうとした時 チカはあたかも稲妻のようにいち早く現われ 振り上げたクワから信（まこと）を遠ざけ 身を挺して守ってくれたのであった。

　この時 チカは象徴的に奪われて失った３つの物を 実体をもって一度に奪い返していた。確かに ３代をかけて築いて来た「象徴的条件」は ほんのちょっと油断した時 完成間近かで穢され奪われてしまった。だがチカは それから何年か過ぎた後 この日の「クワ事件」で 命を張って奪い返して完全に償うことが出来た。

　その瞬間から そのチカのやり残した使命は その最大の危機を共に乗り越え その一部始終を見ていた信（まこと）の手に移されていった。これは将来 信（まこと）が永い年月をかけて回り道をしながら戻って来ようとした時 再びチカの協助を得て 必ず勝利するであろうことを暗示していた。　この「クワ事件」は 信（まこと）の胸に鮮烈にしっかりと刻みつけられた。

　信（まこと）に与えられた「課題と使命」は （悪の敵陣のただ中に入って行って その中から掴んで戻って来なければならない）という 困難な道が待っていた。

　幾たびも「悪の組織」の中を彷徨いながら 真理の混ざった思想に翻弄されながら 何年もの長き間 惑わされていくであろう。　だが 長き歳月が流れ 全ての訓練を通過し終わった時 封印を解くヒントになる（大切な宝）を掴んで 抜け出そうとする時がやって来る。　その時 信（まこと）を亡き者にしようと 美しい死神の追っ手が必死に追いかけて近づいて来るであろう。　「終わりの日」に備えて 「光の道」を整えようとする信（まこと）に 悪魔は最後の誘惑を仕掛けて来る。

　だがこの時の信（まこと）は 未来に起こる出来事など 何一つ想像できなかった。　ただ 漠然と頭によぎったことが一つあった。　（いつの日か 自分が逃れ道を無くし 行き場を無くした時 きっと母が現われ 救ってくれるであろう・・・）という予感のようなものを感じた。　信（まこと）という一人の人間の謎と チカの背負う二つの家系の謎とが全て一致する時 失った「家の光」を再び建て直すであろうことを 先駆けて暗示的に証明することになった。　それは 来るべき実体の勝利の日のために まず象徴的な「勝利の遠因」を先に造っていた。　やがてこれが 信（まこと）の辿る路程の生死を分ける「雛型」となっていく。

　　　　　先生の目

　信（まこと）が 高校一年生の頃 表の花壇に植えた小さな杉に水をやっていた。
その時 向こうから「おー おー」という声がした。驚いて振り返って見ると 小学校の担任だった末松先生の姿があった。信（まこと）に気が付いたのか。驚いてニコニコして近寄って来た。信（まこと）は驚いて何か言おうとしたが （あっ 末松先生・・・）と言ったきり 緊張したまま言葉を失ってしまった。「やー やー 今井君だ。元気にしてる？」

　その時 その声を聞いて 母のチカと祖母のゼンも玄関に出て来て挨拶をした。小学校４年から６年生まで３年間 担任で世話になった先生であった。家庭訪問の度に 信（まこと）のことをいつも心配して 「やれば出来る子なのに 本当に泣きたくなります」といつも残念そうに嘆いていた。

　小柄な末松先生は「懐かしいね 今どうしているの？」と聞いてくれたが 信（まこと）は緊張して口篭ってしまっていた。
「信（まこと）は今 工業高校の機械科に行っています」とチカが代わりに答えた。

　末松先生は ますます口数が少なくなってしまった信（まこと）を横目で見ながら 絵の才能が生かされない方向に進んでいることを残念に思った。　小柄でおとなしく図画の好きな信（まこと）が 昔の自分の姿に似ていたので 特に心をかけて絵の指導をしたことがあった。（信（まこと）が何だか元気が無いのは ひょっとしたら間違えた進路のせいではないだろうか…？）と感じた。先生は何も言わなかったが 信（まこと）を見つめる目は（本当にこの道でいいの？）と強く訴えていた。

　
　
　　　　　　迷　路　

　チカは 博多のプレス工場で働くようになった。仕事が終わると すぐ近くの白石さんの家に寄っては世間話をなどをしていた。そこには 中卒ですぐ働きに出て修業した バリバリと稼ぐ若い一人の職人がいた。彼はプレス機の型を抜く 大切な刃の部分を作っていた。ヤスリでゼロコンマの誤差も許されない精密な仕上げをする 特殊な技術を身に付けていて 相当な収入を得て会社に多大な貢献をしていた。

　チカは そんな様子を見て「ほーう・・・」と感心しながら帰って来た。来年卒業なのに何もしないで家でボンヤリとしている信（まこと）を見て （何とかあの職人さんのように 早く独立して 立派な鉄工所の事業主になってくれないだろうか・・・？）と願った。「おとなしい口下手な信（まこと）には きっとこの道が一番ふさわしいのだ」と決めつけると 信（まこと）を連れて行って（修業させてくれるように頼んでみよう・・・）と思った。

　あくる日 チカはいつものようにその白石鉄工所に寄った。「白石さん 夏休みの間だけ アルバイトでうちの息子を少し修業させて鍛えて貰えませんか？」と頼んだ。「ああ いいですよ・・・」「お願いします」
　しばらくして 信（まこと）はチカに連れられて来た。信（まこと）は 無口でぼんやりした少年であった。

　その時 信（まこと）は 工業高校の機械科で 応用力学や設計など学んではいたが （自分の進む道は この鉄工関係の仕事ではない・・・）と漠然と感じて 後悔しながら暮らしていた。そんな時 信（まこと）は 何も判らないで 言われるままにチカにいきなり連れて来られたのだった。

　信（まこと）は 折角の夏休みなのに 自分の好きではない鉄工所の仕事のアルバイトをする話がいつの間にか出来ていることを知って 何だか母に騙された様な気分になっていた。

　だが 母が勝手に決めた事とはいえ 全て良かれと思ってやってくれたのだし 断わる勇気もなく言われるがままに 仕方なく通うことになってしまった。

　一生懸命に教えようとする白石さんや 職人さんに（申し訳ない・・・）とは思いながら 気が向かないまま ただただ母の熱意と気迫に負けて言われる通りにしていた。

　　　　　　封印された心

　信（まこと）は 何日か通っているうちに 白石さんの奥さんの敏子を見て （ハッ！）と何か昔の事を思い出した。（確か…幼い頃 母に連れられて来た時 コタツに入って足をバタつかせているうちに 足が火にかけてあったやかんに当たり 向かいに座っていた若い綺麗な娘さんの足に 火傷をさせてしまった事があった・・・）

　その時の娘さんの顔が敏子の顔と重なった。　信（まこと）は 敏子の顔を見る度に 火傷させてしまった話を切り出そうとした。だが その度に信（まこと）の喉が何かの力で押さえ付けられ どうしても声が出すことが出来なかった。　信（まこと）の喉は封印されたように言葉が奪れていた。何かが信（まこと）の身体を包み込み 信（まこと）の心を完全に閉ざして 昔の話をさせないように押さえ込み支配した。　見えない鎖が手足と喉に絡みついた。（この事は 今は訊ねてはならないのだろうか…？）

　信（まこと）は 昼食の時間の間 白石さんが何を話しかけても ほとんど会話らしき会話が出来なかった。ただ自分の世界に閉じこもって黙々と食事をしていた。信（まこと）は何やら聞こえて来る話をうわの空で聞いていた。ぼんやりして火傷させた頃の事を思い出し 一人で頭の中で何度も反復していた。信（まこと）は 一度この状態に入ると 頭の思考力が停止して 他の事に意識が行かなくなってしまうのだ。

　自分の世界に入ってしまい しばらくして気が付くと 周りは信（まこと）を理解出来ない異質な人間として見ていた。心が通じない息苦しい空気が流れていた。信（まこと）は心の中で葛藤をしながら すっかり話をすることを諦めてしまった。　（いつか この謝罪と償いが出来る その日が来るのを待つしかないのだろうか…？）と漠然と思った。信（まこと）はこの謎のことを 誰にも相談出来なかった。

　（何故 自分はあんなにハッキリ覚えているのに 誰もそのことについて何も言わないのだろうか？）　確かあの時も 不思議と誰にも叱られなかった。（人を傷つけていながら 許されることって何なのだろうか…？）信（まこと）は ますます口を閉ざして一人の世界に篭もっていった。　実は敏子には良く似た照子という妹がいた。　この謎は後々になってシマによって解き明かされ 真相が判って来る。

　　　　　　孤独の叫び

　信（まこと）は 高校時代の３年間 一見 真面目に机に座って学んでいるように見えた。だが 実のところ 無機質な鉄の話の授業など 聞いていてもつまらなかった。　ぼんやりと窓の外を眺め 講義の内容とは関係のない空想の世界を彷徨っていた。

　昼休み時間が来ても 机に顔を埋めて眠ってるふりをしながら 時間が過ぎるまでぼんやり考えていた。（自分と本当に話が合う友達なんかこの世に一人もいないんだ・・・）貝のように固く心を閉ざして過ごしていた。それからだろうか （言葉を交わさなくても心の通じる 優しい天使のような 本当の心の友が現われないだろうか・・・？）いつしか 叶わぬ夢と幻想ばかりを描いていくようになっていった。

　信（まこと）は 真の友を求めながらも それが叶わないことが判ると 一人でいることの方を選んでいた。心の通じない煩わしい人間関係の中では 自分の意志が表わせなかった。

　集団の中では 余りにも他人の目を意識し過ぎて 精神が分裂してヘトヘトに疲れ果ててしまうのだった。　信（まこと）はそんな時間の中にいることが たまらなく苦しくてならなかった。　他人の関わりの中では 心の安定が全く計れず 自分自身が無価値のものにしか思えなかった。

　やがて自分の世界を他人に壊されるよりも どんなに人から誤解され何を言われても 自分の世界を必死に守るために 殻に閉じ篭もる方を選んでいった。　たとえ自分の悩みや考えていることを話しても ほとんどの人が「お前 変っているな！ そんなこと真剣に考えて何になるんや！。どうでもいいことだよ！」と一蹴してしまうのであった。　

　だが信（まこと）にとって 思い浮かぶ疑問は いつも大切な人生の課題だった。（他の人たちは この事は大切には思えないのだろうか・・・？）

　本来 一番ひかり輝くはずの青春時代が 暗闇の中にたった一人 信（まこと）だけが置き去りにされた。密かに（自分の心の壁を取り払って開放してくれる 「救世主」のような存在が現われないだろうか・・・？）と夢のような存在を待ち続けるようになった。声にならない「内なる心の叫び」を自ら聞きながら 孤独の３年間は悶々と過ぎていった。

　信（まこと）は すっかり女性的な性格になっていった。　自分を優しく包んでくれる母性を求めていくようになっていた。逆に男勝りになっていく逞しい姉の勝江に それを求めようとしていたが 信（まこと）の心を癒してくれるのは 決して一時的な快楽や誤魔化しの安らぎでは満たされるものではなかった。
　
　

　　　　　　間夜中のギター

　チカは 信（まこと）の心に渦巻く嵐が何なのか悟れなかった。何を聞いてもはっきりしない信（まこと）が ただの意志薄弱の息子にしか見えなかった。何を悩んでいるのかも判らず そんな信（まこと）をもどかしく思い （何とか鉄工所への道を進んで大成するように・・・）と勝手にレールを敷き どんどんと引っ張って行こうと 何でも決めていった。

　ある日 チカは 姉のシマの息子 （信行）のところに寄った。信行は信（まこと）の従兄弟（いとこ）にあたるが 小さい頃から遊んだ記憶も無く 不思議と縁が無かった。　その信行も独立して 自分の会社を持ったばかりだった。チカの周りには 鉄工所の成功者がまた一人増えていた。

　シマの話によると 信行（のぶゆき）は小さい時 小児マヒにかかり 一時 （後遺症が残るのではないか？）と危ぶまれたが 無事に回復して 立派な社会人になっていた。信行（のぶゆき）のように信（まこと）も昔 脳に傷害を受ける事故に遭っていることを思い出した。（うちの信（まこと）も 少し知恵遅れでも信行（のぶゆき）ちゃんのように 立派に独立して一人でやれるようになるかも知れない・・・）と希望が出て来た。

　チカは 息子が最近ますます無口になり いつも一人で淋しそうにしていることを信行（のぶゆき）に話していた。　信行（のぶゆき）は話しを聞いているうち 知恵遅れの信（まこと）を心配して相談するチカの姿が 自分の母親のシマと重なった。昔 小児マヒにかかった自分を心配しながら育ててくれた母のシマの姿を思い出していた。

　長男の紀生が蒸発してしまい 残った末っ子の信（まこと）だけを頼りにして 必死になっているチカを見ていると 何だか可哀相になってきた。（何とか元気になってほしい・・・）しばらく考えていたが 急に「あ！ そうだ このギター 良かったら信（まこと）ちゃんにあげてください。」　信行は ギターと楽譜とを持って来てチカに差し出した。
　「え そんな高価なもの 貰っていいの？」「うん 俺はもう弾かないから 信（まこと）ちゃんに持って行ってあげて下さい」「どうもありがとう 信行ちゃん」

　チカは ギターを抱えて汽車に乗った。規則正しく ゴトゴトと音を立てて走る汽車の中で 暗い窓の外の行き過ぎる家の光を見つめながら 何かに悩んでいる信（まこと）が ギターを弾いて明るくなってくれることを夢見ていた。

　信（まこと）は 母が貰って来たギターを受け取ると大変喜んだ。信（まこと）は それから毎日 かかさず夢中で練習を始めた。「空虚な道」を進んで行かねばならない苦しさを紛らわせるかのように みんなが寝静まっても闇の中で弾いていた。だが 信（まこと）の爪弾く曲は 「禁じられた遊び」や「影を慕いて」など暗い曲ばかりで ますます一層暗くなるばかりだった。
　チカは 信（まこと）に「安らぎと試練」という「アメとムチ」で どんどん一つの方向に引っ張っていった。

　　　　　　反復地獄
　
　今の時代なら すぐ登校拒否の「落ちこぼれ」になるところである。
だが信（まこと）は 「土地問題」に悩まされるチカや 疲れて帰って来る正喜たちに これ以上の苦労や心配をかけたくなくて 家族の誰ひとりにも悩みを打ち明けることをしなかった。

　「あいつは白痴だ」「あいつは何が面白くて学校に来ているのか？」とみんなに陰口を言われても 石のように何も言わず 心を閉ざしたまま ただただ耐え続けて学校に通った。　この辺のふてぶてしさは 新聞配達で鍛えられた忍耐強さが いつのまにか根づいていたのだろうか…。

　授業中 いつもぼんやりと聞いていたが 何か引っ掛かる言葉を思いつくと そればかりを繰り返して何度も反復していた。一度この状態に入ると 一時間の授業内容も何処かにふっ飛んで 台無しになってしまうのだった。　時間をロスして反復地獄に入りそうな予感が迫った時 信（まこと）は必死に他のことを考えて気持ちをそらし 頭を振りながら見えざる敵との闘いを人知れず繰り返していた。　だが どんなに抵抗してもほとんど無駄だった。

　　　　　　英霊の塔

　他人と関わるための「心の窓」を無くした信（まこと）は 若者の表情が無くなっていた。黙って立っているだけで 周りの人を傷つけてしまい 人の心を悩ませる自分の存在を感じていた。　自分に関わる友人 兄弟 両親 親戚 全ての人が 信（まこと）と関わることで苦しんでいくことを感じていった。

　夏休みになって 親戚の人が大勢 家に遊びに来ても 信（まこと）は全てに自信を失い 意志の疎通が完全に出来なくなっていた。（こんな廃人のような人間は 決してこの世に存在してはいけないんだ。僕はみんなの邪魔者なんだ・・・）みじめな気持ちになり落ち込んでいった。

　信（まこと）は 息苦しくなって耐えられなくなると すぐ裏の小高い山に逃げて行った。苦しさに逃れようとして気が付くと いつの間にか塔の上に登っていた。　そこには 戦争で亡くなった兵士達の魂を祭る 忠霊塔がそびえ立っていた。淋しくなると 信（まこと）はいつもここに来ていた。ゼンの部屋の床の間に置いてあった写真の英霊は ここに祭られていた。

　　　　　　闇夜の祈り

　信（まこと）はある日 夜が更けて薄暗くなった忠霊塔にたたずんだまま帰れなかった。
信（まこと）は（もし 自分のことが原因で 優しい同級生の精神状態がおかしくなったのならば もう死ぬしかない・・・）と思い始めていた。（明日に道を聞かば 夕べに死すとも可なり・・・）

　（信（まこと）は心の窓と言葉を失った自分のせいで 一人の心優しい同級生の精神を狂わせてしまうことになるが その理由といきさつは�C求道編で詳しく述べたい。）

　信（まこと）は 生きる事にすっかり疲れてしまっていた。（死にたい…人間て何？ 人生とは？ 愛とは？ 罪とは？神様！ 一体何なのですか？教えて下さい・・・！）　いつしか兄の紀生が 日記の中で求めていた疑問を 天に向かって真剣に問いかけていた。

　闇の中に眠る英霊の傍で 自分の生きている意味と人生の目的が何なのか？ 必死に尋ね求めていた。　いつの間にか あたりはすっかり暗くなってしまい 闇夜の忠霊塔に何かが近寄って来ていた。不気味な霊に包まれたような気がしたが 信（まこと）にはもう怖がっている余裕などは無かった。

　（死にたい・・・こんな人間は もう死ぬしかないんだ・・・）　信（まこと）は 暗闇の中で手を組んで 絶望に身体を震わせた。（もう自分は生きる資格は無いんだ・・・）と死の予感を感じながら激しく泣いていた。　普通の生き方すら出来ない自分があまりにも情けなくて 熱い涙が止めどもなく溢れて流れ落ちた。夜空の星も周りの景色も何もかもが にじんで見えなくなった。その涙の滴が塔の石の上にポトポトと静かに落ちた。（神様 神様・・・ 神様！ どうか教えて下さい！）

　その時 突然 心につぶやく声が聞こえて来た。（信（まこと）よ・・・）目をつぶったまま 静かに聞き耳を立てた。（信（まこと）よ 死んではならない）（・・・）（真理を知りたいか？）（・・・？）　その声は自分の心のつぶやきにも思えた。　（信（まこと）よ もし真理に出逢えるならば どんな「苦難の道」であっても行けるか？）（・・・・・・）（家族や友人 そして大切な恋人 愛する者の全てをお前は捨てていけるか・・・？）　信（まこと）の心に自問自答してくる 声ならぬ声が何処からか聞こえてくるのだった。

　信（まこと）は咄嗟には返事が出来なかった。黙って暗闇の中に倒れたまま金縛りにあったように動けなくなった。　再び闇からの声が聞こえて来た。（信（まこと）よ 受けるべき人の幸せを捨て 家族の命を犠牲にしてまでも お前は真理を知りたいか・・・？）闇夜の中で聞いて来る質問に 人間としてその返事は簡単に答えられるものでは無かった。

　（もし・・・真理を知ることが出来るなら 私はすぐに死んでも構いません！）　信（まこと）は闇の中に向かってやっと答えた。
　だが 闇夜の主は 信（まこと）のそんな「曖昧な答えかた」を一切 許さなかった。

　（その命が お前の愛する父 そして祖母の命であってもか・・・？）　信（まこと）は言葉を失った。しばらく沈黙が続いた。（神様！ それはあなたが一番よくご存じの筈です・・・）やっとの思いでその答えを静かに心の中で思った時 信（まこと）はこの忠霊塔に漂う 何か暖かいものに包まれたような気がした。

　人生の意味を知ること無く 若くして散っていった「無念の英霊の魂」が信（まこと）に近寄ってくるのを感じた。最初は怖かったが 次第にその霊に包まれると 傷ついた心を癒してくれるような不思議な感覚があった。　信（まこと）が英霊とひとつに重なっていった瞬間だった。
　物言わぬ兵士たちに寄せる 信（まこと）の漠然とした思いも 暗闇のなかで深くなっていった。信（まこと）を捉えていた深い疲労感や厭世感を和らげ 慰めてくれるような優しい霊であった。

　　　　　　天との誓い

　信（まこと）はこの日 いつの間にか 「神との誓い」をさせられていた。「闇の誓い」をした後 信（まこと）は暗闇の坂道を 転げ落ちるように降りていった。　下に降りていく時 急に怖くなり （今のは嘘です！ 今言った言葉は嘘です！）と 「神との誓い」を翻して 自分勝手に心の中で訂正していた。

　そして あまりの恐ろしさに青い顔をしたまま 裏口から帰ってくると 祖母の顔もまともに見れず そのまま布団を被って寝た。・・・信（まこと）はこの時の「誓い」をいつしか忘れてしまった。
　いや 恐ろしさのあまり全てを忘れてしまいたかったのだ。必死でこの日のことを（錯覚だったのだ・・・）と思い込もうとした。　だが天は この信（まこと）との「誓い」を英霊たちと共にしっかりと記憶していた。

　この瞬間から 信（まこと）の「宿命の道」が動き出した。しかし天は（真理を知りたい・・・）と言った信（まこと）の願いを そうやすやすと簡単には叶えてくれはしなかった。
　信（まこと）の行く手に待ち受ける様々な試練の中で 少しずつ小出しにしながら しかも悪なるものと混ぜながら ３段階で与えられていくとは 全く想像も付かなかった。

　だが信（まこと）には 世を惑わしながら 天国を掲げて現われて来る偽りの天使 「悪なる組織」の中から 「正しい真理の部分だけを 確実に選り分けて掴んで行かなければならない」という重大な使命が託されていたのだった。

　信（まこと）がこの英霊と 本当の意味で一体となるためには 先人の通過して来た道を これから先 たった一人で乗り越えて行かなければならなかった。　その道は 信（まこと）の辿る、精神的にも肉体的にも 死の限界を超える耐えがたい苦痛と苦難の「茨の道」をも意味していた。

　だが天は 一度この「闇夜の誓い」を信（まこと）の記憶の中から取り除かれた。　その後 忘れてしまった「誓い」でありながら 人としてのあらゆる喜びや楽しみを一時捨てて行かねばならない道を 不思議な直感力でかぎ分けて導かれていくことになっていく。
　母チカは この頃の信（まこと）の悩みや心の中の変化を全く知らなかった。

　ある日 母は 急に物静かになった信（まこと）が心配になって 何か話しかけて来た。ベッドの上でぼんやり座っている信（まこと）は 何を聞いても力無く「うん・・・」と一言返事するだけで元気が無かった。顔色が悪く思春期の溌剌とした若者らしさが全く無くなっていたのだった。

　　　　　　第１段階の道

　やがて信（まこと）は 高校の機械科を何とか無事に卒業した。
チカは 信（まこと）を連れて 四月から勤めることになる堅粕にある鉄工所に挨拶に行くことにした。

　この日 お世話になる重役さん達に「息子の信（まこと）をこれからよろしくお願いします」と挨拶に行った帰りだった。（いよいよ社会人として 世の中に役立つ人間になってくれる・・・）　チカはこの喜びを誰かに話したくなった。（そうだ シマ姉さんに息子の信（まこと）を合わせよう）博多駅に向かう途中 鉄橋の横の橋を渡りながら急に思い立った。

　信（まこと）はチカの後ろを少し離れて歩いていた。信（まこと）は橋を渡った所に「看板屋」があるのを見つけると 立ち止まってガラスごしに中の様子を見ていた。

　（シマに逢いに行こう・・・）と決めてから 足を早めて歩いていたが 後ろを振り返ると はるか後ろの方で何やら店の中をのぞき込んでいる信（まこと）が見えた。チカは　「早く歩きなさい！」と叫んだ。　信（まこと）は母に促され 仕方なくその場を離れ 急いで追いついて来た。「母さん 僕 看板屋で修業したい・・・」小さな声でつぶやいた。

　チカは たった今 鉄工所に就職が決まったばかりなのに 今更 そんな言葉を聞くとは思わなかった。チカは （信（まこと）の気まぐれで言う たわごとに違いない・・・）と思い 何も答えなかった。何故か黙って無視して前を歩いていた。

　信（まこと）は 何も言わないで歩くチカの後ろ姿を見ながら急に立ち止まった。（お前のレールはもう決まっているよ。何を今更 血迷ったことを言うんだ・・・）　母の背中がそう言っているように思えて 自分が本気で考えている気持ちが通じないことを悲しく思った。
　この時 信（まこと）は自分が本当にやりたい仕事を直感的に見つけていた。生涯を貫く仕事として 看板屋の文字を書く仕事があたかも天職であるような直感があった。

　伯母のシマはビルの清掃会社に勤め パートの仕事をしていた。一仕事終えて パートの控え室で休憩していた時 突然 妹のチカが 息子の信（まこと）を連れて訪ねて来た。「こんにちはー！」「おー チカ 久しぶりだねー」「信（まこと） ほら うちの姉さんのシマ伯母さんだよ。挨拶しなさい」「こんにちわー」　信（まこと）は恥ずかしそうに頭を下げた。

　シマはチカと一緒に付いてきた信（まこと）を見ると 「おおー 末っ子の信（まこと）か 大きくなったねー」「姉さん 信（まこと）は今年 高校を卒業して 堅粕の鉄工所に勤めることに決まったとよ」　チカは嬉しそうに話した。
　まだ学生服を着た信（まこと）は 世間の荒波も何も知らない 純真で内気な少年だった。そんな信（まこと）をチカは姉のシマに合わせた。これが シマと信（まこと）が近づいた最初の出逢いだった。

　シマは 初々しい信（まこと）を見た時 就職祝いに何か買ってあげたくなった。「そうだ じゃあ 何か祝いをしてあげようね」　シマは（ブレザーを買ってあげよう・・・）と思った。「もう社会人になるとやから ブレザーの一着ぐらいは持ってないとね」「あらー 姉さんありがとう。ほら 信（まこと）！伯母さんが就職祝いに ブレザーを買ってあげるってよ」「えー あ ありがとう 伯母ちゃん」　信（まこと）は はにかみながらお礼を言った。

　シマは近くの紳士服売り場に連れて行くと 「信（まこと） あんたの好きな柄を選びなさい」と言った。信（まこと）はたくさん並んでいる中から 細かいチェックのグレーのブレザーを選んだ。
　学制服だった信（まこと）が ブレザーに着替えると 急に一人前の大人になったように見えた。

　「あー 良く顔に映えるね！」微笑みながらシマが言うと チカも嬉しそうに感心して見ていた。この時の 二人の姉妹の笑顔は 信（まこと）が未来に希望を与えてくれることを信じていた幸せなひとときだった。。　信（まこと）は 初めて身近で出逢ったシマ伯母さんから プレゼントされるのが嬉しかった。（シマ伯母さんは 何となく大らかな広い心を持った人だな・・・）と この時 直感していた。

　誰にも判って貰えない自分の本当の心を シマ伯母さんだけは理解してくれるような気がしていた。（シマ伯母さんと進路のことで少し話したい・・・）と思ったが 折角 信（まこと）の就職祝いをして喜んでくれているのに そんな気持ちに水を差すようなことはとても言えなかった。

　シマとチカの二人が 楽しげに色々と話している様子を見ながら 信（まこと）は（ますます このことは今はとても言えない… 裏切ることは出来ない・・・もう母が敷いたレールを行くしかないんだ・・・）と観念していた。

　　　　　　　労働の苦しみ　

　やがて四月が来て 信（まこと）は 堅粕にある小さな鉄工所に勤めるようになった。
　信（まこと）は ターレット旋盤という大量生産用の機械を与えられた。丸い真鍮のホイルを毎日 毎日 ノルマの３００個を削る単調な仕事だった。信（まこと）はこの会社で 創造性を否定され機械の歯車になっていくことを要求された。だが信（まこと）はどう頑張っても 一日に２００個も削れなかった。（生きて行くための仕事は辛いものだ・・・）とつぶやきながら ひたすら耐えるしかなかった。

　その後 信（まこと）の行く手には 恐ろしい赤い獣が待ち構えていた。　チカは 信（まこと）を無理矢理 鉄工所に引っ張って行き あたかも計算したかのように 見事に第一段階の天の訓練の場に 信（まこと）を追いやっていく。それは一つの価値観から 次の価値観へと進むための 重要な通過点であった。
　そしてそれは 信（まこと）が忠霊塔を周りながら立てて来た条件を チカが預かった結果として 最後まで責任を持って導かなければならなかった。
　
　

　　　　　　二人の息子の行方

　兄の紀生は 東京に行ったきり 消息不明になったまま何年も帰って来なかった。
　ところがその上に 最後の頼みにしていた末っ子の信（まこと）までが チカの期待を見事に裏切り 家の事を放ったらかしにして 思想や宗教の道を求めながら放浪していくようになっていく。　チカは あれほど息子たちに期待をかけて育てて導いて来たのに ことごとく裏切られていくのが悔しくてならなかった。　（私は子供の教育をどこかで間違ってしまったのだろうか・・・？）

　だが チカの引いたレールは 信（まこと）の行くべき「未来の道」を決定していく重要なスタートラインになっていたのだった。それは三代目の使命を果たすための「宿命の道」でもあった。

　信（まこと）は 機械に向かいながら 生活のために全然自分に向かない仕事を 仕方なく嫌々ながら続けるよりも （本来の自分の一番やりたい仕事を見つけて 一生をかけても悔いの無い道を捜すべきである・・・）と真剣に考えるようになっていた。

　この抑圧された日々の心の反動がきっかけとなり そののち思想や宗教に惑わされながらも 真剣に「人生の真の意味」を探求していくようになる。

　チカは 息子たちが何故こうなってしまったのか 床についても色々と思い苦しみ 暗闇の中で尋ね求めていた。眠れない日々が何日も続いた。

　息子たちが行く道は かつてチカが象徴的に通過して来た道を 新たな次元で再現しながら歩いていたのだが この時のチカは まだこのことに気が付かなかった。　そして この道は息子たちが生涯独身のままでも やり通す価値のある仕事であった。

　信（まこと）と共に眠り続けて来た「饅頭を作る道具」は 信（まこと）が目覚める時まで 今井家の家宝として家族たちを守る「宮殿の至聖所」の役割を果たすようになっていくであろう。

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　明治以降の日本は 帝国主義や共産主義 さらに博愛平等主義など 西欧の文化や思想の荒波にさらされていく時 その中心に立つべき宮殿の主体の位置が 三段階にわたって軍閥や民主化という偽キリストたちによって奪われ 惑わされていった。
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　信（まこと）自身の心の宮も この３段階の惑わしを通過しながら 本来の自分のあるべき姿を見いださねばならなかった。「奪われたものが何であるのか？」あらゆる全てのものを犠牲にしながらも探していかねばならない「求道の人生」が始まっていくのである。
　これ以後 信（まこと）は 裏の小屋の中に 「光の象徴」が眠っていることに全く気が付かないまま 失った光を外に尋ね求めながら 西洋文化の申し子とも言える思想 哲学 宗教などの世界に踏み迷いながら 彷徨っていくようになる。

　それは 世の終わりが近づいて来て 明治維新を迎えた時 日本民族が本来持っていた筈の 古来の伝統をことごとく見失い 西欧文化の洗礼を受けつつ 遠回りをしながらも その真の意味に目覚めて立ち帰っていくまでの 歪んだ日本の近代歴史における全ての過程を表わしていた。
　
　
　

　　　　　　白い犬の霊

　チカは 自分の家にあまりにも忌まわしいことばかり起こるので ふと（自分が過去に何か悪いことをしたのだろうか・・・？）と心配になり 祈祷師の処に行って祈って貰った。だが 今井家の家に取り憑いたものの正体を見極めようと巫女が祈祷した時 そこに現われて来たのは「大きな白い犬」の霊であった。

　「大きな白い犬が出て来ました！。あなたの家には 巨大な犬の霊が強く取り憑いています」「えっ 大きな犬ですか・・・？」「はい・・・」「狐の間違いではないのですか？」「いいえ 間違いなく白く大きな犬です」
　チカは その言葉を聞くと ふと 昔のことを振り返って思い出そうとした。

　（確か・・・ 古い家を解体する時に 家に祭ってあった何やら埃を被った古いお稲荷さんのような祭壇を 供養もしないで勝手に処分して捨てたことがある・・・）
　チカは 嫁いで行った義理の妹たちに昔の祭壇のことを尋ねに行った。「ああ あの祭壇ね 確か母さん（ゼン）が時々神柴をあげて祈っていたけど そこには大黒様の置物もあったね。父さん（喜平）がその中に時々お金を入れて いくらか貯めていたようでしたよ」昔の家での色々な話が出て来たのだった。

　（あのとき・・・確かに 私が祭壇を捨てて焼いてしまった。ひょっとしたらこれは お稲荷さまの祟りかも知れない・・・）　チカは 深く反省して 裏の井戸の傍に新たにお稲荷さんを再建して祭った。　新しい大黒様の置物も買って来て 家の中の神棚の横に置いた。　だが 英霊を表わす白い犬の霊は 間違いなく今井家に取り憑いていたのであった。

　　　「光の道を備えよ！」　�U闘争編
　　（３部 チカ激闘時代 後編）　おわり

　　　　　　あとがき　

　ある日 息子の信（まこと）が久しぶりに現われた。信（まこと）は小さい頃から自閉症ぎみで 母親のチカにも何を考えているのかさっぱり理解できない処があった。

　だが その信（まこと）が持って来たメッセージは チカの抱き続けてきた人生の疑問に対して 深い示唆と謎解きの回答を出していた。
　それは 幼少の頃から チカの今日まで辿って来た戦いの様子の一部始終を見て来た息子の信（まこと）が描く 妄想と現実が一つになったような何やら怪しげな小説であった。チカはそれに目を通した時 今まで感じたことの無い不思議な世界に魅了されていった。
　その時から チカはものを大局的に見る目を見開かせられていったのだった。

　それは チカの今までの人生の中での不思議な体験と 過去の謎の記憶がよみがえって来るようになった時でもあった。
　チカは 「過去に起こった数々の事件」を振り返りながら 長い間二つの家系（今井家と田口家）に隠され続けて来た「光の道を備えていくための基台」の隠された意味を導き出していくようになる。　誰も知ることを許されなかった二つの家系の謎を 「光の道」という一つのテーマで捉えていく時 これまで解けなかった謎がおぼろげながら見えてくるようになっていった。

　永い年月をかけながら遠回りして来た信（まこと）は ここに来てやっと 田口家の過去を母から詳しく聞くことを許される時がやって来た。　その短い時間に母の語ってくれた昔の苦労話は 信（まこと）に更なる確信を与えることになった。チカの体験して来た実話は 信（まこと）の描く空想と一つになって 更に摩訶不思議な続編を書き進めていくことになっていった。

　ここまで来ると チカの周りで起こって来た事件は単なる偶然ではなく ある歴史の法則に基づいて忠実に展開されて来ていることに気が付く。シマの時と同様 チカの人生の中にも 信（まこと）が歩むべき模擬路程が隠されていた。いや チカの人生はシマの自叙伝以上の深い内容が含まれていたのだ。そのことを発見していくうちに 信（まこと）は同じ道を既に先駆けて通過して来ていた母のチカに かくも切なく有り難い複雑な思いが湧いて来るのだった。

　（全ては 天の計画通りに進んで来ていたのだ）
　かつて信（まこと）の道を阻んでばかりいたかに思えた母が 実のところ信（まこと）が立て直すべき道にあえて関わり続け 通過すべきふさわしい方向路線を定めて引っ張って来ていた。見えざる天の摂理に沿った 適切な導きをことごとくしていたことに始めて気が付いたのだった。

　その時 それまでかすかに持ち続けて来た 母に対する小さなわだかまりは たちまち闇のかなたに消えていった。それどころか（良くぞ天の摂理に呼応して ここまで導いてくれたものだ・・・）表現しがたい深い感謝の思いが湧いて来るのだった。
　（天意のはかりごとは 何と思慮深く かくも奥深いものであろうか・・・？）

　今まで長い間 対立的な立場に置かれて来た母と子が お互いに歩んで来た道の中に不思議な一致点を見いだす時 「光の道」という使命を中心として より深く固い絆で結ばれていることに初めて気が付いたのだった。　チカは母親と死に別れてから 失明した父親を支えながら田口家を支えて来た。

　　学ぶ機会を奪われ 学歴も無く文字もうまく書けなかったが どんな試練をも乗り越えて逞しく生き抜く知恵を持っていた。「悲しみや苦しみ」を「喜びと楽しみ」に替え 悩みも悔しさも見事に乗り越えてきた母。信（まこと）は母の偉大さに感謝の念がいっぱいになった。

　信（まこと）は 自分の使命を完全に勝利して成し遂げるには 最後には母の協助がどうしても必要になることを「闘争編」の中から導き出していた。　確かに信（まこと）の書いた小説の内容を真に理解し その価値が判る人物は 世の中広しと言えども 先に信（まこと）の行くべき模擬路程を歩んで来た チカというたった一人の母親しかいないことに気がついたのだった。

　信（まこと）は 今まで悪を腹んだ組織を渡り歩き その中に隠されていた真理の断片を選り分けながら彷徨って来た。　その求道の半生のたどり着く最終ゴールは 自分の存在の原因となる二つの家系の謎と封印を解くことにあったと言える。その最後の使命を完成させるために 今まで基礎となる思想 哲学 宗教という備えられた訓練を受けて来たのだった。　

　今や信（まこと）の頭の中に完成しつつある大局的思考が集大成され 「真理の光」を提示できる「終わりの時」が近づきつつある。　そして母が読んで理解し 受け入れられる内容のものにまで柔らかく噛み砕いた かくも長々しい長編空想小説を書くようになった。
　
　この小説をここまで読み終わった時 チカは遠い過去の中に引き戻され 辿って来た激しい戦いの意味が何であったのか 少しずつ見えて来るようになっているだろう…。　　　　　

　（この世から捨てられたような（知恵遅れの息子）が 果して天のメッセージを預かる「真理の光について証をする者」となって現われる可能性があるのだろうか・・・？）　

　わが子ながら信（まこと）は 悪い意味で人並みでないところがあった。これまで両親や親族から受けてきた恩を ことごとくあだで返して来た。世話になった多くの人たちの期待に背いて 恩義を平気で裏切り ただただ真理を尋ね求めて荒野を彷徨い 紆余曲折の道を歩いて来た。
　確かに何事かを成そうとすれば どうしても人並みではなくなることは一理ある。

　（チカの苦労はもしかすると そのあとに来る者のために 最後の仕上げを完結するための土台作りの戦いであったのだろうか…？）
　一代目の戦いが 象徴の歩みだったとすれば 今まで闘って勝ち取って来たチカの歩みにはどんな意味があるのだろうか？。

　それは完結しなければならない最後の実体的戦いをする三代目に 間違いなくバトンを渡していくための「形象的な模擬路程」であり いわば信（まこと）のための「ひな型の道」であったことになる。（雛型・・実物を小さくした模型 見本）　そのことは チカが戦って勝ち取って来たものが 一体何であったかを突き詰めていけば おのずと次第に見えてくるようになる。

　（信（まこと）が今井家の裏庭に植えた一本の梅の木…）それが何を意味するのかを悟る時 その根拠を次第に理解し 受け入れられるようになっていく。

　確かにチカは 自分の人生を振り返って見るとき 人並みではない不思議な運命を辿り 激しい闘争を繰り返して来た。その闘いは 一代目（甚七と喜平）が一度 光と共に無くしてから 死ぬまで立て直そうと願い続けた家業に密接に関わっていた。

　それはお菓子と饅頭を作って 周りの人に食べさせて広める使命である。　その祝いの時 配られる饅頭の材料（米と小豆）が何を意味するのか？。その謎解きをすることが 最後の課題となって残されていた。

　天は二つの家系の家訓を一致させるための土台を作り 一代目の果たせなかった使命を三代目につなげる内容と力を持った人物として 多くの女性の中から チカという人物を選ばれた。

　「光の道を備えよ！」というこの家訓は その後 チカを中心として信（まこと）と紀生という二人の息子に 受け継がれていく。　二人が青春の放浪を続けながら 「真理の道」をひたすら求めて荒野を渡り歩き 備えられた三段階の道を全て通過し終わった時 突然 稲妻が閃き渡るように ついに謎の封印が解かれ明らかにされていく。

　やがて 信（まこと）の植えた梅の木に 沢山の花が咲く年 これまでチカが激しい闘いをして守り抜いて来た全ての因縁と条件を地面から吸収して 大粒の豊かな実を結ぶようになる。　　　　（梅についての詳細は �E解明編｛聖書とおとぎ話の謎｝で述べたい）

　世の終わりが来る時 全ての謎を解く者が長い眠りから目覚めて やがて満開に咲く桜の花（目覚める日本民族）に先駆けて現われることを表わしている。

　かつて 篭から逃れた小さな蛇は 海を見下ろしながら「真理の光の玉」をしっかりと掴んで 輝く天の大空に昇っていく。それは シマの部屋に飾ってあった一枚の額の絵のように その姿を見守る「雲の上に立つ観音様」は その使命に関わる女性たちを表わしている。

　ハシ、 シマ、 ゼンたちの全ての願望を託されたチカは 輝く「真理の玉」を掴むという「龍の正体」を知る時が来る。その時 ただ訳も分からず背負って来た苦労と艱難のすべてが報われていく。　

　　　　　　　激闘時代　あとがき　おわり

　　　　聖書の言葉より

　子供らよ 父の教えを聞き 悟りを得るために耳を傾けよ。私は よい教訓を あなたがたに授ける。私の教えを捨ててはならない。私も我が父には子であり わが母の目には 一人の愛し子であった。父は私を教えて言った。「私の言葉を 心に留め。私の戒めを守って 命を得よ。それを忘れることなく…背いてはならない」
　知恵を得よ 悟りを得よ。知恵を捨てるな それはあなたを守る。それを愛せよ それはあなたを保つ。あなたが何を得るにしても 悟りを得よ。それを尊べ そうすれば それはあなたを高く上げる。もしそれを抱くならば それはあなたを尊くする。それはあなたの頭に麗しい飾りを置き 栄えの冠をあなたに与える。
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　箴言４章一節

　　　　　光の道を備えよ！
　　　　　闘争編（１部　２部　３部）　おわり　

　　　　　　　　　�B流浪編に乞うご期待…！